人工股関節置換術の特徴
人工股関節置換術は、近年、その技術も飛躍的に進歩し、日本国内で年間5万件以上の手術が行われる一般的な治療法になっています。その一番の目的は、関節の痛みの除去です。
さらに、ほとんど歩けなかった方が歩けるようになったり、外出困難だった方が旅行できるようになったりと、生活の質の大きな改善が望めることもメリットです。
従来と比べてより小さい切開で手術が可能に
最近では、技術の進化により、従来に比べてより小さな切開で手術を行う最小侵襲手術法(MIS)が可能になりました。
この手術法の場合、皮膚はもちろん筋肉や靭帯(じんたい)の損傷を最小に抑えることができるため、手術後の回復が早まり、早期の歩行、社会復帰が望めます。
しかし、最少侵襲手術法による人工股関節手術は、全ての方に対応できるものではなく、体格や股関節の損傷の度合いによっても異なります。また、回復期間には個人差がありますので、担当医師とよく相談しましょう。
歩行時の横ゆれも改善が期待できます
股関節疾患が原因で、左右の脚の長さが異なってしまうこともあります。その場合、歩行時に大きく横にゆれたり、片脚を引きずって歩くなどの歩行障害が起こることもあります。
人工股関節手術では、このような歩行障害の改善も期待できます。
技術開発による耐久性の向上
手術から15年経った後も97%以上の人工股関節がよく機能しています*。
さらに、医療用の生体適合性の高いチタン、超高分子量ポリエチレン(ちょうこうぶんしりょうぽりえちれん)素材の開発などにより、幅広い年齢層に対応できるようになってきています。
※人工関節の耐用年数は個人の体重、年齢、活動レベルやその他の要因によって異なります。
*Lombardi AV Jr, Berend KR, Mallory TH, Skeels MD, Adams JB.
“Survivorship of 2000 tapered titanium porous plasma-sprayed femoral components.”
Clin Ortho Relat Res. 2009; 467(1): 146-154
人工股関節置換術について
人工股関節置換術は、関節の痛みの原因であるすり減った軟骨と傷んだ骨を取り除いて、金属やプラスチックでできた人工関節に置き換える手術で、痛みの大きな改善が期待できます。
人工股関節は、金属製のカップ、骨頭ボール、ステムからできており、カップの内側に軟骨の代わりとなるライナーがはまります。骨頭ボールがライナーにはまることで、滑らかな股関節の動きを再現できます。
入院・手術・退院までの流れ
手術を受ける前には、疑問や不安な気持ちもあるかと思います。手術や治療方法で不明な点があれば、遠慮せずに医師や看護師などに質問しましょう。
納得して前向きな気持ちで治療にのぞむことが回復への近道となります。
手術決定から退院までの流れ
病院によって違いはありますが、入院・手術の前後の一般的な手術の流れはこのようになります。
手術が決まったら
- 全身の状態を検査します
- 手術前の運動を始めましょう
- 自己血貯血(必要時)をします
- 退院後の自宅での生活を考え、生活様式を見直してみましょう
- 医療福祉や住居改造の助成について調べておきましょう
自己血輸血(じこけつゆけつ)
手術で一定量の出血が予想される場合、あらかじめ自分の血液(自己血=じこけつ)を採血しておいて、必要な場合(手術中や手術後)に輸血する方法があり、これを自己血輸血(じこけつゆけつ)と呼びます。
手術の7日~10日ほど前は
- 現在服用している薬のうち、指示のあったものについては、この頃から服用を止めるものもあります
- 風邪をひかないように、健康管理に注意しましょう
手術について
手術の前日は
- 入浴またはシャワー浴をして全身を清潔にします
- 決められた時間以降は飲食ができません
手術の当日
- 手術の前は飲食・飲水ができません
- 手術前の準備を行い、手術室へ行きます
- 麻酔をかけて手術を行います
手術後は
- 担当医師からご家族の方に手術の結果についての説明があります
- 看護師や医師によって全身の状態が管理されます
リハビリテーションについて
足を動かす、ベッドサイドに座るといった練習から始めます。ベッドサイドで立ち上がる練習や歩行器を使って歩く練習を行います。その後は回復状況に応じてメニューを変えながらリハビリテーションを行います。
また、人工股関節の手術後は、日常生活の動作において脱臼(だっきゅう)しないための注意点がありますので、リハビリテーションの中でひとつひとつ練習を行っていきます。
- 歩行距離を少しずつ長くする
- びざや股関節を曲げる運動
- ひざや股関節の周りの筋肉を鍛える運動
- 伺歩行練習
- 階段の昇降練習
- 脱臼しないように日常生活を行うための動作の練習
退院日が決まったら
- 自宅での生活を想定した動作の練習をします
- 退院後の生活の注意点について説明があります
- できるだけ、ご家族の方にも一緒に聞いてもらいましょう
合併症とその予防について
人工関節手術に限らず、一般的に手術にはリスクが伴います。まれですが、手術後に合併症が起こる場合もあります。
脱臼
人工股関節の脱臼には注意が必要です。医師・理学療法士の指示に従って、正しい姿勢や動作を保つことで、脱臼のほとんどは避けることが可能です。
一般的な脱臼の予防
- 脚を組まない、交差させない
- 股関節を深くまげない、しゃがまない
- ひざを内側に倒してかがまない
※脱臼の注意は手術方法などによって異なりますので、担当医師・理学療法士の指示に従ってください。
退院後の快適な生活
退院して2~3週目を過ぎる頃になると、回復してきたことが実感できるようになります。個人差はありますが、退院後2ヵ月~半年くらいすれば、旅行や趣味の活動もできるようになるでしょう。
定期的に受診しましょう
手術後は、人工関節を長持ちさせるために、定期的な受診が必要です。定期受診は通常、手術後、はじめの1年間は数回、2年目以降は年に1~2回です。医師の指示に従って、必ず受診しましょう。
体重の管理をしましょう
・適切な体重管理を心がける
運動を続けましょう
無理のない距離の散歩、軽いスポーツ・活動(水泳、ゴルフ、グラウンドゴルフ、ゲートボール、ボーリング、ガーデニングなど)フィットネスセンターでの定期的な運動
※運動については担当医師や理学療法士の指示に従ってください。