糖尿病は無自覚・無痛の状態から始まりますが、末期の患者さんは失明したり足を切断したり人工透析を受けたりしています。
したがって糖尿尿病患者の方やその家族の方は、糖尿病の末期症状について把握し、糖尿病をこれ以上進行させないようにしましょう。
この記事では糖尿病の末期症状とその予防方法を紹介します。
糖尿病の末期症状
高血糖の状態が長く続くとさまざまな合併症を引き起こしやすくなるといわれています。脳梗塞や心筋梗塞など命に関わる病気も糖尿病の合併症です。
合併症は、その病気に伴って引き起こされる病気のことで、合併症のほうが元の病気より深刻なこともあります。
特に糖尿病の合併症は糖尿病そのものよりも深刻な結果を招きます。
糖尿病の合併症は、血糖値が高い状態が続くことで、血管がぼろぼろになったり神経が侵されたりすることで起きます。
さらに、血管が損傷すると細胞に酸素や栄養が行き届かなくなるため、全身にさまざまな障害が起きます。
この記事では、以下の4つの合併症について解説していきます。
●糖尿病性神経症
●糖尿病性網膜症
●糖尿病性腎症
●尿毒症
上記4つのうち「糖尿病性神経症」「糖尿病網膜症」「糖尿病性腎症」の3つを糖尿病の三大合併症と呼んでいます。
こちらも併せてご参照ください
糖尿病患者の寿命|1型・2型の末期症状と平均余命
糖尿病性神経症
糖尿病の合併症のなかでも特に発症頻度が高いのが、糖尿病性神経症です。手足などに走っている末梢神経がダメージを受け、痛みやしびれが出てきます。
糖尿病性神経症のその他の症状には次のようなものがあります。
●手足の痛みやしびれ
●安静時に足がつる
●顔面神経麻痺
●感覚の鈍化
糖尿病性神経症は、高血糖の状態が続くことによってソルビトールという物質が神経細胞に蓄積することで起きると考えられています。
また、高血糖は毛細血管の血流を悪化させるので、末梢神経の細胞が毛細血管から酸素や栄養を受け取れなくなります。
その結果、神経細胞が壊されるのではないか、といわれています。糖尿病性神経症を引き起こす原因はほかにもあるとする説もありますが、いずれにせよ原因は明らかになっていません。
糖尿病性神経症を放置すると痛みなどの感覚を感じなくなるので、傷を負っても気がつかず治療を怠ってしまうことがあります。そうすると細菌に感染しやすくなり、細胞が壊死します。
壊死した細胞は再生できません。足の細胞が壊死したら足を切断することになってしまいます。
糖尿病性神経症も早期に発見して治療に取り組むことが重要です。
糖尿病性神経症の治療には、食事療法や運動療法、薬物療法などがあります。また痛みやしびれがある場合はそれを緩和させる治療を行うこともあります。
食事療法や運動療法に関しては後述します。
糖尿病性網膜症
糖尿病性網膜症は日本の成人の失明原因の上位になります。
網膜は目の眼底にある神経細胞が敷き詰められた膜です。網膜で光や色を感じ、その情報が脳に届くことで「見える」ようになります。
網膜には細い血管も張りめぐらされています。そのため高血糖状態が続くとその血管が損傷を受け、神経細胞に酸素と栄養が届かなくなります。
このとき、新しい血管(新生血管)をつくって神経細胞に酸素と栄養を届けようとします。
新しい血管ができるのであれば「良いこと」のように感じるかもしれませんが、そうではありません。新生血管は元の血管よりもろいので簡単に壊れて出血しやすくなるのです。
新生血管が出血するとかさぶたのような膜(増殖組織)ができます。
この膜が網膜を引っ張ってしまい、網膜剥離の原因となります。網膜剥離とは、網膜が眼球壁からがれることですので、網膜で光や色を感じられなくなり視力低下や失明を招きます。
糖尿病性網膜症には次の3種類があります。
●単純糖尿病網膜症
●前増殖糖尿病網膜症
●増殖糖尿病網膜症
それぞれについて以下で説明します。
単純糖尿病網膜症
単純糖尿病網膜症は初期段階のことで、血管の瘤である毛細血管瘤ができたり、小さな出血がおきたりします。単純糖尿病網膜症では自覚症状がありません。
この段階で血糖コントロールなどを行い血糖値の改善ができれば改善できることもあります。
前増殖糖尿病網膜症
前増殖糖尿病網膜症は、単純糖尿病網膜症が進行した状態です。網膜の血管の障害が進むことで網膜に酸素が行き渡らなくなります。その結果、新生血管ができ始めます。
この状態になると目のかすみといった症状が現れます。この段階では網膜光凝固術という治療を行います。
これは血流の悪い部分にレーザーを当てることで低酸素状態を改善し、新生血管がつくられるのを予防したりする治療法です。
増殖糖尿病網膜症
前増殖糖尿病網膜症より重症化した状態が増殖糖尿病網膜症です。この状態になると、新生血管が伸び、網膜だけでなく硝子体という別の器官も障害されるようになります。
新生血管が破れると硝子体出血を起こします。出血が起こると黒いゴミのようなものが見える飛蚊症という症状を引き起こします。さらに進行すると視力低下を招きます。
新生血管が破れると増殖組織という膜ができますが、この膜が収縮すると網膜が引っ張られるため、網膜剥離を引き起こしてしまいます。
この段階になると硝子体手術という治療を行います。手術器具を使って眼球に穴を空け、増殖組織を取り除き、剥離した網膜を戻したりします。
ただし、視力や網膜が完全に元の状態に戻るわけではありません。
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症とは糖尿病の合併症の1つで腎臓が障害される病気です。症状は段階的に進んでいきますが、ひどい場合には腎臓が完全に機能しなくなる腎不全に陥ることもあります。
腎不全まで進んだ場合は人工透析という治療が必要になります。国内の透析患者さんの約4割が糖尿病性腎症であるとの報告もあります。
糖尿病性腎症も初期は自覚症状がほとんどなく、発見しづらい病気ですが、進行すると次のような症状が現れます。
●むくみ
●しびれや痛み
●満腹感
●食欲不振
●息切れ
●胸の苦しさ
●顔色の悪化
●疲れやすくなる(易労感)
●嘔気、嘔吐
●筋肉の強直
●つりやすくなる
●筋肉や骨の痛み
●腹痛
●発熱
糖尿病性腎症には病気の進行度合いに応じて第1期から5期までの「病期」が設定されています。第1期、第2期の段階ではほとんど自覚症状がありません。
第3期になると、むくみや胸の苦しさ、息切れなどの症状が出てきます。
さらに第4期、第5期と症状が進むと、筋肉や骨の痛み、つりやすくなる、顔色の悪化などが生じます。
糖尿病性腎症では病期によって以下の治療を行います。
第1期(腎症前期)では血糖コントロールになります。
第2期(早期腎症期)では血糖コントロールをより厳格に行い、降圧治療も開始します。
第3期(顕性腎症期)では治療にタンパク質制限が加わります。タンパク質の食材を食べないようにします。
第4期(腎不全期)では人工透析を導入します。人工透析を開始すると原則、中止できません。
第5期(透析療法期)では腎移植も検討に入ります。
第4期まで症状が進むと人工透析を行うことになります。人工透析は週3回、1回4時間かかるものです。
生活に大きな支障を来たしますので、病期を進めないように血糖コントロールや降圧治療、タンパク質制限などにしっかり取り組みましょう。
尿毒症
腎不全になると腎臓の機能が低下します。腎臓が機能しなくなることで体内の老廃物や毒素を尿によって体外に排泄することができなくなり、血液中の有害物質が多くなってしまうと尿毒症を発症することがあります。
尿毒症の症状は全身におよびます。主な症状は次のとおりです。
●脳関連の症状:頭痛、不眠、けいれん、意識障害
●目関連の症状:眼底出血、視力障害
●口のなかの症状:味覚異常、歯肉出血
●顔の症状:むくみ、顔色の悪化
●心臓関連の症状:動悸、高血圧、脈の乱れ、心肥大
●血管関連の症状:血管の石灰化(硬くなる)
●肺関連の症状:咳、息苦しさ
●血液関連:貧血など血液検査による数値の悪化
●腎臓関連の症状:尿量が減る
●胃腸関連の症状:吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振、胃潰瘍、十二指腸潰瘍
●皮膚関連の症状:かゆみ、むくみ、色素沈着、皮下出血
●神経関連の症状:感覚異常、いらいら
●骨の症状:高リン血症、低カルシウム血症
尿毒症を発症すると透析療法が必要になります。このように尿毒症は生活の質を大きく低下させる病気です。
糖尿病の予防方法
糖尿病は食べ過ぎ、運動不足、ストレス、不規則な生活などが原因で発症する場合があります。また、これらの生活習慣はインスリンの働きも妨げてしまいます。
糖尿病の原因となるうる生活習慣には以下のようなものがあります。
●食べ過ぎ
●運動不足
●過剰なストレス
●睡眠不足
糖尿病の進行を食い止め、合併症を引き起こさないためにもこれらの生活習慣を改善する必要があります。
必要量のエネルギーをとる
糖尿病を予防するには、必要エネルギー量の範囲内で炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルをバランス良くとることが大事です。
1日のエネルギー必要量は次のように算出します。
・1日のエネルギー必要量=標準体重×身体活動量
・標準体重=身長(m)×身長(m)×22
・身体活動量
軽い労作(デスクワークなど)25~30Kcal/kg
普通の労作(立ち仕事など)30~35Kcal/kg
重い労作(力仕事など)35~Kcal/kg
軽めのウォーキングを継続する
糖尿病は運動不足や肥満が原因などの原因が重なることで発症するといわれています。したがって継続的な運動をすることで糖尿病の進行を防ぐことができる場合があります。
運動をすると筋肉でエネルギーが消費されるので、血糖値が下がる効果が期待できます。
また運動不足が原因で糖尿病を発症した方は運動によってインスリンの働きが改善することがあります。
運動不足の人は軽めのウォーキングから始めてみてはいかがでしょうか。
血糖値コントロールには食後1~2時間後にウォーキングを行うことが良いでしょう。1分間に80メートル進む程度の速さで1回1万歩、週3回以上行うようにしましょう。
ストレス源を遠ざける
糖尿病はストレスが原因で発症することもあります。
日常生活で完全にストレスをなくすことはできませんが、ストレスを感じるストレス源(ストレッサー)を取り除いたり、遠ざけることでストレスを減らすようにする必要はあります。
例えばストレスの対処法には次のようなものがあります。
●環境を変える
●十分な休養をとる
●娯楽や趣味でリフレッシュする
●腹式呼吸をする
●専門家や友人に相談する
●仕事の環境を変える など
7~8時間以上の睡眠をとる
7~8時間程度の睡眠をとることも、糖尿病を末期症状にまで悪化させないために重要です。
睡眠不足だと空腹時血糖値が上昇し、インスリンの分泌が低下するといわれています。つまり、睡眠不足は糖尿病のリスクが高まるだけでなく、糖尿病の悪化にもつながるのです。
反対に睡眠時間を延長すると、空腹時血糖値を低下させたり、基礎インスリン分泌能が増大することもわかっています。
つまり十分に睡眠をとることは糖尿病のリスクを減らすことにつながるのです。
糖尿病を悪化させないためにも質の良い睡眠を心がけましょう。
まとめ
糖尿病は放っておくとさまざまな弊害が出る病気です。また、早い段階で適切な治療に取り組まないと病気が進行してしまううえ、健康な状態に戻ることができなくなります。
特に三大合併症は、進行すると失明や足の切断、人工透析にいたることもあります。
このような状況を防ぐためにも、食事療法や運動療法を取り入れ、十分な睡眠をとり、ストレス解消に取り組みましょう。