日本における国民病のひとつである糖尿病。糖尿病有病者・予備軍を合わせ、発症が疑われる人数はおよそ1,000万人にのぼるといわれています。糖尿病は遺伝のみならず、生活習慣も発症に関係しているため、「最近運動不足で太り気味」「食生活が乱れている」といった自覚がある方は要注意です。
糖尿病の発症原因を詳しく解説するとともに、糖尿病予防で知っておくべきポイントを紹介します。
糖尿病の原因
糖尿病は、血糖値が慢性的に高くなる病気です。血糖値上昇を抑制する「インスリン」と呼ばれるホルモンの作用が低下・不足することにより、様々な合併症のリスクをはらみ、身体に悪影響をおよぼします。
なお、糖尿病の原因には複数の要素が存在します。「1型糖尿病」では自己免疫疾患などによるインスリン分泌細胞の破壊、「2型糖尿病」では、遺伝的(体質的)要因に加え、運動不足や過食など環境的要因(生活習慣上の要因)も、糖尿病発症の原因となります。その他、妊娠が契機となる「妊娠糖尿病」もあります。
糖尿病になりやすい食事
食事の内容や食べ方によって、糖尿病発症へとつながるおそれがあります。糖尿病になりやすい食事と食べ方について見ていきましょう。
<糖尿病になりやすい食事と食べ方>
● 食事を食べ過ぎる
「もうこれ以上食べられない」という食事の取り方は、カロリーオーバーから肥満、そして糖尿病へとつながるおそれがあります。
● 糖質の取り過ぎ
適度な糖質の摂取は欠かせませんが、 取りすぎは慢性的な高血糖を招きます。
● 脂肪・糖分・塩分の取り過ぎ
脂質・糖質の摂り過ぎは肥満および糖尿病の原因となります。 また、塩分の取りすぎは高血圧による合併症リスクを向上させるため注意が必要です。
● アルコールの取り過ぎ
アルコールの代謝にともない、インスリンを分泌する、すい臓の働きは鈍くなってしまうため、過剰なアルコール摂取は望ましくありません。なお、お酒自体にも糖質が含まれるものがあるため注意が必要です。
● 間食が多い
間食をすると、それぞれの食事の時間が十分に空かないため、高血糖状態が継続してしまいます。 もちろん食べ過ぎの原因にもなります。
● 外食が多い
お店やメニューを適切に選ばないと、カロリーや塩分、アルコールの取りすぎにつながります。
● 早食い・ダラダラ食い
食べ過ぎの原因となるだけでなく、 胃腸への負担が増大することにより、消化不良やインスリンの働きの阻害の原因となるおそれがあります。
● 朝食を食べない・夕食を多く食べる
安定した血糖値の維持のために、3食を決まった時間に食べるようにしましょう。なお、夕食は食べる量が多くなりがちですが、3食を同じくらいの分量バランスで食べることが望ましいです。
こちらも併せてご参照ください
糖尿病の原因となる食事を紹介|メニュー見直しで病気を予防
糖尿病になりやすい生活習慣
糖尿病の中でも特に2型糖尿病の発症にかかわりの深い、乱れた生活習慣の具体例として以下が挙げられます。
● 食べ過ぎ
食べ過ぎは、肥満につながるおそれがあります。
● 肥満
脂肪細胞から分泌されるホルモン「アディポカイン」は、インスリンの効きを悪くするため、高血糖を誘発します。標準体重をオーバーしている方は注意してください。なお、現在は痩せていても、過去に肥満だった方も糖尿病になりやすいといわれています。
● 運動不足
運動不足による筋肉低下により身体に脂肪がつきやすくなるため、肥満・糖尿病につながる原因となります。
● 過度の飲酒
お酒を飲むと、おつまみとして塩分の多い食べ物が欲しくなりがちです。カロリーオーバーの原因にもなるため、アルコールはできる限り控えることが望ましいです。
● ストレス
ストレスも、糖尿病発症に深く関係するとされています。ストレスの多い環境にいる方はご注意ください。
その他に考えられる原因
糖尿病の原因として、食事や生活習慣など環境的要因以外に考えられるのが、遺伝的要因です。 糖尿病自体が遺伝することはありませんが、インスリンの働きが不十分な体質(インスリン抵抗性を持つ体質)が受け継がれることがあります。
具体的には、親・兄弟・姉妹などの近親者に糖尿病の方がいる場合、糖尿病になりやすい体質や遺伝子を持っている可能性があるといえるでしょう。糖尿病になりやすい体質を受け継いだからといって、絶対に発症するわけではありませんが、日ごろから食習慣や生活習慣に気を配ることが望ましいです。
また、1型糖尿病においてはウイルス感染が原因となるケースも知られています。このケースでは、すい臓のβ細胞の急激な破壊により高血糖に陥り、昏睡や死に至る場合もあります。これは「劇症1型糖尿病」と呼ばれ、年間300人ほどの症例が推定されており、国指定難病のひとつとなっています。
糖尿病を予防する方法
糖尿病は日常生活を見直し、気を配ることで、予防効果が期待されます。血糖値を高くする行動を控え、血糖値が必要以上に高くなりにくい体質を目指しましょう。
具体的には、食事の取り方やメニューの見直し、継続的な運動のほか、ストレス対策に気を配ることが糖尿病予防につながります。現在、糖尿病の兆候がなくても、見直すべき点があればいまのうちに改善することが望ましいです。
糖尿病を予防する食事
糖尿病の予防には、上記「糖尿病になりやすい食事」を避けることが大切です。その他、ちょっとした心がけや生活習慣を改善することも、糖尿病予防につながります。今日からすぐに実践できる、糖尿病を予防する食事方法を覚えておきましょう。
● 間食をしない
食事と食事の間のインターバルを取ることは、血糖値を下げるために不可欠です。間食により食事の時間が十分に空けられなくなると、血糖値が高い状態がキープされてしまい、インスリンを分泌する臓器・すい臓への負担も増大します。特に、糖質を多く含む甘いお菓子やドリンクの間食はできるだけ控えましょう。
● 野菜や海藻などから先に食べる
食事の血糖値上昇を緩やかにするために、野菜や海藻、あるいは豆類やきのこ類などから食べ始めることが望ましいです。これらを先に食べることで、満腹感を得やすくなる効果も期待できます。
● 腹八分目で食事を終わらせる
常に満腹状態の食べ方では、糖尿病発症の原因となるブドウ糖が過剰に作られるおそれがあります。 カロリーの摂りすぎを防ぐためにも、腹八分目の食事が望ましいです。
● ゆっくり食べる
早食いは血糖値の急激な上昇につながり、血糖コントロールに悪影響をおよぼします。食べ過ぎの原因にもなってしまうので、ゆっくりとよく噛んで食事を取りましょう。
血糖値を下げる食べ物一覧
血糖値を上げやすい食べ物には、エネルギーに変わりやすい炭水化物が挙げられます。パンやご飯などがその代表です。続いて、肉・魚・卵などのタンパク質、そして油などの脂質の多い食品が該当します。
それらの食品の過剰摂取を避け、食後血糖値の上昇が穏やかな食品(低GI食品)を献立に取り入れるようにしましょう。
<血糖値を下げる食べ物>
● キノコ類
● 海藻類
● 野菜(オクラ、玉ねぎ、トマト、キュウリ、レタス、ホウレンソウ、ニンジン、キャベツなど)
● フルーツ(バナナ、アロエ、シークワーサー)
● 豆類
● 五穀(玄米、麦、アワ、ヒエ、キビ、黒米など)
● 牛乳
● 全粒粉を使った食品
食事メニューを見直す
糖尿病の予防には、適切なエネルギー摂取量の範囲内で、栄養バランスの良い食事を取ることが効果的です。エネルギー源となる三つの栄養素(糖質、脂質、タンパク質)の標準的なバランスは「糖質60%、脂質25%、タンパク質15%」とされていますが、血糖値が高く血糖コントロールが必要な方は「糖質40%、脂質40%、タンパク質20%」の割合が適しています。
ただし、丼ものなどの一品料理は早食いにつながりやすいほか、栄養バランスも偏りがちです。「主食・主菜・副菜」を上手に組み合わせた食事を心がけるようにしてください。特に、野菜、キノコ類、海藻、食物繊維をしっかり食べることが大切です。
また、タンパク質も肉ばかりから取るのではなく、魚や豆類も取り入れてください。同じ食材を用いる場合でも、よりヘルシーな調理法を選択すると良いでしょう。茹でる・蒸すなどの調理法を選択すれば、炒めたり揚げたりする調理法とは異なり、油を使う必要がありません。
生活習慣の改善
糖尿病の改善には、食生活のみならず生活習慣全体の改善が求められます。いずれも健康的な生活における基本であり、糖尿病予防にも深い関わりがあります。生活習慣の改善の具体例として、以下の3つのポイントを紹介します。
● 運動
● 睡眠
● ストレスをためない
糖尿病予防に効果的な運動
運動で血中のブドウ糖を消費することにより、血糖値を下げる効果が期待されます。また、筋肉を使うことでインスリンの働きを促し、さらに糖尿病発症の原因のひとつである肥満の解消にもつながります。有酸素運動をメインとした、ややきついと感じる強度の継続的な運動を実践しましょう。
以下、糖尿病予防に効果的な有酸素運動を紹介します。
<糖尿病予防に効果的な有酸素運動>
● ウォーキング
● ストレッチ
● 軽いジョギング
● サイクリング
なお、運動が得意でない方や、忙しくて運動の時間が取れない方は、日常生活の中で体を動かす習慣を取り入れるとよいでしょう。日常生活でできる運動法には、以下のようなものがあります。
<日常生活でできる運動法>
● 1つ前の駅で降りて歩く
● 階段を使う
● 待ち時間にかかとの上げ下げを行う
● 体を動かすことを意識して家事をする
これらの運動は、糖尿病の発症や悪化の抑制に適していますが、病状によっては運動を控えるべき場合もあるので注意してください。すでに糖尿病を発症している方、または糖尿病の疑いがある方は、医師に相談のうえで許可を得てから運動をスタートしてください。
睡眠をしっかりとる
高血圧や肥満との関係も知られる睡眠障害。不眠はインスリンの働きを悪くする原因になるといわれており、実際に京都大学と滋賀県長浜市の共同研究(ながはまコホート事業)にて、睡眠呼吸障害が糖尿病頻度の上昇と関連していることが認められています。中でも睡眠呼吸障害を持つ閉経前の女性は、特に注意しなければいけません。質のいい睡眠を取るポイントを理解しておきましょう。
<質のいい睡眠を取るポイント>
● 朝起きたときに朝日を浴びる
● すぐに朝食をとる
● 夕食は寝る3時間前に済ませる
● 40℃くらいのお湯にゆっくりつかる
● 体格に合った枕を選ぶ
ストレスをためないようにする
血糖値上昇作用を持つホルモンは複数存在しており、ストレスを受けることでこれらのホルモンが分泌されます。具体的には、アドレナリンや甲状腺ホルモン、グルカゴン、コルチゾールなどのホルモンには、血糖値を上昇させる働きがあるのです。
さらに、ストレスに起因する飲酒や過食は肥満を誘発し、糖尿病発症の原因となります。肥満ではなくても、ストレスによって糖尿病発症率が上昇するとの報告もあるため、日ごろからストレスをためないような生活を意識することが重要です。
<効果的なストレス対策法>
● 環境を変える
● 運動をする
● 休養をとる
● 楽しめる趣味や娯楽をもつ
● 腹式呼吸をする
● 1人では無理と感じたら人に相談する
まとめ
糖尿病の原因は、遺伝的(体質的)要因のほか、運動不足や過食といった環境要因(生活習慣上の要因)、さらには妊娠など多岐に渡ります。なかでも、糖尿病の原因への対策・予防として、生活習慣上の要因は見逃せません。
食習慣・生活習慣の見直しは不可欠となるでしょう。食事メニューや食べ方、運動の方法などの要点を押さえ、早期に実践し健康的な生活を送りましょう。