持効型インスリン治療とは|メリット・デメリットを解説!|内科専門医師が配信

2021.08.19

カテゴリー: 糖尿病

糖尿病の治療法の1つに、インスリン製剤を自己注射する方法(以下、インスリン自己注射)があります。糖尿病の患者の方が自分で注射器を握ってインスリンを体内に投与します。

インスリン自己注射は患者の方の負担が大きいため、2型糖尿病の患者の方の場合、飲み薬(経口薬)の効果が出なくなってから移行します。ただし、医師によっては2型糖尿病であっても早めにインスリン自己注射をすすめることがあります。

また1型糖尿病の治療ではインスリン自己注射が必須になります。糖尿病の治療でインスリン自己注射が多用されるのは、血糖値のコントロールの精度が高まることが期待できるからです。

さらに、低血糖のリスクを抑えながら患者の方の負担を減らすことが期待できる「持効型溶解インスリン製剤」を使った「BOT(Basal Supported Oral Therapy)」という治療法が注目されています。

そのあたりについても本記事で詳しく解説します。

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糖尿病治療にインスリンを使う理由

糖尿病は膵臓(すい臓)からインスリンが分泌されなくなったり、インスリンが機能しなくなったりすることで血糖値が高くなる病気です。血糖値が高くなると血管が壊れやすくなり、より重大な病気を引き起こします。

インスリン自己注射は、体外から注射によって直接体内にインスリンを投与する治療法です。

インスリン自己注射で使う薬剤にはいくつか種類があります。インスリンは効果が出るのが早い薬剤もありますし、効果がゆっくり出る薬剤もあります。医師は薬剤を使い分けることで、患者の方のライフスタイルに合わせて血糖値をコントロールします。

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持効型溶解インスリンとはどのようなものか?

インスリン自己注射で使われるインスリン製剤には、効果の出方の速さや効果の持続時間などによって、超速効型インスリン製剤や速効型インスリン製剤などの種類があります。持効型溶解インスリン製剤もそのうちの1つです。

持効型溶解インスリン製剤は「トレシーバ」「レベミル」「ランタス」といった商品名で販売されています。製薬メーカーによって商品名が異なります。

インスリン自己注射の目的は、基礎インスリンを補うためと追加インスリンを補うための2つあります。持効型溶解インスリン製剤は基礎インスリンを補う目的で使います。

「持効型」は効果が持続するという意味で、その名のとおり持効型溶解インスリン製剤の効果は24時間続きます。超速効型インスリン製剤は効果が3~5時間ほどしか持続しないので、持効型溶解インスリン製剤の効果の持続時間の長さが理解できると思います。

注射のタイミング

持効型溶解インスリン製剤は1日1回の自己注射で済みます。注射を打つタイミングは医師と相談して決めます。

どのような働き方をするか

持効型溶解インスリン製剤を自己注射で投与すると体内のインスリンが増えるので血糖値が下がります。インスリンは血中の糖が細胞に取り込まれるのを助けます。

効果が出るまでの時間

持効型溶解インスリン製剤は、血糖値を下げる効果が長く持続する代わりに効果が出始めるまで1~2時間ほどかかります。
ちなみに超速効型インスリン製剤は10~20分ほどで効果が現れます。

効果が持続する時間

持効型溶解インスリン製剤はほぼ1日効果が持続します。

持効型溶解インスリンのメリット・デメリット

持効型溶解インスリン製剤を使うメリットとデメリットを紹介します。

メリット

持効型溶解インスリン製剤のメリットは次の4つがあります。

作用時間が長く、健康な人と変わらない生活を送ることができる

持続時間(作用時間)が長いので1日1回の自己注射で済みます。例えば、朝食前に自宅で自己注射すれば昼食前や夕食前に打つ必要がないので、いわゆる「普通の生活」に近い生活を送ることができます。

濃度のピークが少ないため夜間の低血糖を起こすリスクが低い

持効型溶解インスリン製剤は効果がゆっくり現れてゆっくり減っていくので、インスリンの血中濃度のピークが少ない、という特徴があります。

インスリン濃度が急激に上がって急激に下がると夜間の低血糖が懸念されますが、持効型溶解インスリン製剤はそのリスクが小さいといえます。

体重増加のリスクが低い

空腹は低血糖に差しかかるときに感じやすいです。持効型溶解インスリンを使うと血糖値濃度のピークが小さく一定に作用するので、低血糖に陥りづらく空腹を感じにくいので体重増加のリスクが低くなります。

1日1回だから打ち忘れが少ない

持効型溶解インスリン製剤は1日1回の自己注射で済むので、「打ち忘れ」のリスクを減らすことができます。

デメリット

持効型溶解インスリン製剤を使うデメリットは2つあります。

食後高血糖の改善効果は強くない

持効型溶解インスリン製剤は「基礎分泌」を補う薬で、食後に起きる急激な高血糖を改善する効果は強くありません。

食後の高血糖の改善には「追加分泌」を補う製剤が適しています。したがって患者の方の状態によっては持効型溶解インスリン製剤を使えないこともあります。

食事療法・運動療法がきちんとできていることが必要

どの薬を使うかに関わらず糖尿病の患者の方は食事療法と運動療法に取り組むことが求められます。

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日本でも普及しているBOT

持効型溶解インスリン製剤の自己注射を使った治療法の1つにBOTがあります。これは自己注射が1回で済むので、働いている人や食事をする時刻が不規則になりがちな方に向いている治療法です。

インスリン治療は1日4回の自己注射が基本です。それと比べるとBOTは、1日1回の注射で済むので患者の方の負担が小さくなる可能性があります。

BOTとは

BOTはいくつかあるインスリン治療のなかで比較的新しい方法の1つです。先ほど、インスリン自己注射をする目的は、基礎インスリンを補う目的と追加インスリンを補う目的の2つがあると紹介しました。

BOTは、自己注射は1日1回の持効型溶解インスリン製剤だけにして、食後の血糖値上昇対策には飲み薬を使います。

BOT以外の治療法の1つに「Basal-Bolus療法」があります。これは持効型溶解インスリン製剤を1日1回打って基礎インスリンを補い、さらに超速効型インスリン製剤を毎食前、1日3回打って追加インスリンを補う治療法です。つまり1日4回の自己注射が必要になります。

ほかの治療法より注射の回数が少なくて済むBOTはインスリン治療が初めての方にも始めやすい方法です。

日本でもBOTを行う人が増え始めている

BOTでは自己注射の回数が1回なので、朝食前に行えば翌朝まで自己注射する必要はありません。手軽ですし、打ち忘れのリスクを減らすことができるので患者の方に喜ばれています。新しい治療法として積極的にBOTを患者の方にすすめる医師もいます。

インスリン自己注射には、インスリンの効果が出すぎて血糖が下がりすぎてしまい、低血糖を引き起こすリスクがあります。しかし、持効型のインスリンは効果が一定で長時間続くため、BOTは低血糖リスクが小さい治療法であるといわれています。

まとめ

インスリン自己注射は患者の方に負担のかかる治療法ですが、持効型溶解インスリン製剤を使ったBOTは、その負担を小さくできる可能性があります。

1型糖尿病の方にはインスリン治療が必要不可欠です。しかし、2型糖尿病で経口薬治療中の患者の方のなかには「インスリン自己注射は最終手段」と考え、自己注射の使用を遅らせたいと考える人もいます。

一方で自己注射は血糖値のコントロールがしやすくなるなどのメリットもあります。

糖尿病治療は長期化すること多いため、医師とよく相談して効果と負担のバランスが取れた治療法を選ぶようにしてください。

 

 

監修:院長 坂本貞範

 

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