空腹時血糖値ではわからない!隠れ糖尿病の正しい検査と予防

2021.08.19

カテゴリー: 糖尿病

空腹時血糖値ではわからない!隠れ糖尿病

糖尿病患者の方が糖尿病の検査を受けたのにも関わらず「正常値」が出ることがあります。このタイプの糖尿病のことを「隠れ糖尿病」と呼びます。糖尿病患者の数は隠れ糖尿病患者を含まないため、現在、糖尿病と診断されている人の数は糖尿病を抱えている人の半分にすぎないのではないか、という指摘もあります。

つまり糖尿病を抱えている人の半数は検査で「正常」と判断されているために、治療を受けるチャンスを失っている可能性があるのです。

この記事では隠れ糖尿病の実態を解説したうえで、隠れ糖尿病を発見するための検査方法や、隠れ糖尿病を予防する方法を紹介します。

隠れ糖尿病のセルフチェック方法や原因と症状についてはこちらで解説しています。

健康診断などの通常検査では分からない糖尿病がある

糖尿病は年々増加傾向にあります。隠れ糖尿病についてもその可能性は否定できません。通常検査を行っても隠れ糖尿病を発見できない理由とそのリスクについて見ていきましょう。

糖尿病の通常検査とは

糖尿病の診断は血液検査で行います。患者さんの血液を採取して成分を調べます。通常、健康診断で行う糖尿病の検査は空腹時の血糖値検査です。空腹時の血糖値が126mg/dlを超えると糖尿病が疑われます。

通常検査で気づかれない糖尿病の正体

ではなぜ、健康診断などでは空腹時に血糖値を計るのでしょう。それは、食後の満腹のタイミングでは、糖尿病でない人でも血糖値が上がってしまうからです。つまり、満腹時に血糖値検査を行ってしまうと、健康な人も「糖尿病疑い」と判定されかねないのです。

逆に、空腹時に血糖値を計れば、食事をしてからかなり時間が経過しても血糖値が下がらない「糖尿病の疑いが濃厚な人」だけが異常値を示す、というわけです。

したがって、空腹時血糖値が高い人は、糖尿病疑いになることは問題がないのです。しかしここで問題なのは、隠れ糖尿病では、通常の血糖値検査で正常値が出てしまうことです。

ではなぜ糖尿病を発症しているのに、空腹時血糖値が低い人(隠れ糖尿病患者さん)がいるのでしょうか。

食事を摂ると血糖値が上がります。このとき、すい臓からインスリンが分泌されて血糖値が正常値に戻ります。空腹時血糖値は前日の最後の食事から10時間以上経ったときの血糖値ですが、インスリンの働きが悪いと、食事をしてもしばらくの間は血糖値が上昇したままということがあります。

つまり隠れ糖尿病患者の方は、空腹になるころには血糖値が正常値に戻ってしまうのです。

隠れ糖尿病が招くリスク

隠れ糖尿病を放置すると、通常の糖尿病を発症しやすくなります。糖尿病で気を付けたいのが合併症の発症リスクです。

糖尿病の合併症には次のような病気があります。

  • 糖尿病神経障害
    手足の神経が障害され、痛みやしびれを引き起こします。悪化すると感覚が鈍り、傷を負っても痛みを感じなくなります。その結果感染症を引き起こし、手足の組織が壊疽(えそ)し、切断にいたることもあります。
  • 糖尿病網膜症
    網膜は目の組織のひとつです。糖尿病によって網膜に走っている血管が壊されてしまいます。最悪、失明してしまいます。
  • 糖尿病腎症
    腎臓には糸球体と呼ばれる毛細血管の塊があります。糸球体は老廃物をろ過して尿として排出する働きがあります。高血糖の状態が続くと毛細血管がダメージを埋めるため、腎臓が機能しなくなってしまいます。最悪の場合、腎不全に陥り、生涯にわたって人工透析を受けることもあります。
  • 動脈硬化からの脳梗塞、心筋梗塞
    動脈硬化は血管が硬くなる病気です。糖尿病が進行すると細い血管だけでなく、太い血管も障害するため、動脈硬化の原因になります。糖尿病に高血圧や脂質異常症などが加わると動脈硬化のリスクはさらに高まります。また、動脈硬化は脳梗塞や心筋梗塞など命に関わる病気の原因になります。

隠れ糖尿病を発見する検査方法

隠れ糖尿病を発見するには、通常の検査とは異なる検査を受ける必要があります。ここでは、隠れ糖尿病の発見が期待できる次の3つの検査を紹介します。

  • 尿糖試験紙を用いた検査
  • HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)検査
  • ブドウ糖負荷試験

尿糖試験紙を用いた検査

隠れ糖尿病を発見する手法として注目されているのが、尿糖試験紙を用いた検査です。血糖値が160~180mg/dlを超えると尿中に糖が出てきます。尿糖試験紙を尿に浸すと、色が変わり、簡易的に尿中の糖分濃度を測ることができます。

これを隠れ糖尿病が疑われる患者が食後に用いることで、食後血糖値の高さが推測できるため、隠れ糖尿病の発見に役立ちます。

尿糖試験紙のメリットはコストが安いことです。価格は10枚で700円ほどで、薬局でも購入できます。尿をかけるだけなので、患者の方が自分で行うことも可能です。

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)検査

HbA1c検査は血液検査のひとつです。HbA1c検査は通常の健康診断でも行われることもありますので、健康診断の結果を見直してみると良いでしょう。

HbA1cは、ブドウ糖と結びついているヘモグロビンの割合を示す数値で、検査を行った日の1~2カ月前の平均血糖値を反映します。HbA1cは食後高血糖の影響も現れますので、隠れ糖尿病患者の方でも異常値を示すことがあります。

HbA1cは4.3~5.8%が基準値とされ、5.8%を超えると要注意、6.5%を超えると糖尿病の可能性が高いと判断されます。Hblc検査は病院で1,000円程度で検査できます。

ブドウ糖負荷試験

ブドウ糖負荷試験は、検査前日の夕食以降10時間絶食し、検査に臨みます。検査開始直後に採血して、まず空腹時血糖値を計ります。次にブドウ糖75gを水に溶かした液体を飲み、30分後と1時間後、2時間後に血糖値を測定します。

2時間後に測定した血糖値が140mg/dl以上で糖尿病予備軍、200mg/dl以上の場合で隠れ糖尿病と判断されます。検査料金は2,000~3,000円程度です。

隠れ糖尿病を予防する方法

隠れ糖尿病の検査方法について説明しました。隠れ糖尿病は糖尿病を発症しやすいため、隠れ糖尿病を予防することは糖尿病そのものを予防することにつながります。

以下で隠れ糖尿病の予防方法について詳しく見ていきます。

ゆっくり食べる

隠れ糖尿病は食後血糖値が高くなるというのが特徴です。そのため、食後血糖値を上げないことが隠れ糖尿病を防ぐことにつながります。

食後血糖値を上げないポイントはゆっくりと食べることです。早食いをすると血液中に一気に糖が入ってくるため、インスリンの働きが追いつかず、食後血糖値が急上昇してしまいます。
「どうしても早く食べてしまう」という人は、ひと口食べたら1回箸を置く習慣を身に付けてみると良いでしょう。こうすることで食事の時間が長くなり、ゆっくり食べることにつながります。

食後に運動を行う

運動には血糖値を下げる効果があります。したがって食後に運動すれば、食後の血糖値を下げることが期待できます。食後の血糖値が上がりやすいのは食後30分~1時間ですので、この時間に運動をしましょう。

例えば、会社での昼食であれば、食後に会社の周りをウォーキングするのも良いでしょう。特に食後すぐに横になってテレビを見る習慣がある人は気を付けましょう。

糖質制限食よりバランス良く食べる

こちらも併せてご参照ください
糖尿病を改善・予防する食事・運動のポイント|内科専門医師が配信

最近、ご飯やパン、うどんなどの糖質が多い食材を避ける糖質制限食が話題ですが、こういった糖質制限食は長期的に血糖値を下げたという証明が医学的になされていないためお勧めできません。

隠れ糖尿病を予防するのに大切なのは、さまざまな栄養素をバランス良く摂ることです。糖尿病予防で推奨されている割合は次のとおりです。

  • 炭水化物:摂取エネルギーの50~60%
  • たんぱく質:標準体重1kgあたり1.0~1.2g
  • 脂質:摂取エネルギーの20~25%

標準体重は「身長(m)×身長(m)×22」で算出した値です。

1日の適正な摂取エネルギーは次の値に標準体重をかけて算出します。

  • 軽い労作(デスクワークが多い人):25~30kcal/kg
  • 普通の労作(立ち仕事が多い人):30~35kcal/kg
  • 重い労作(力仕事が多い人):35~kcal/kg

まとめ

隠れ糖尿病について説明しました。隠れ糖尿病は通常の血糖値検査で見付けることができないため、やっかいな病気です。

隠れ糖尿病は放置すると通常の糖尿病を発症しやすくなります。最近は健康診断の項目のなかにHbA1c検査が含まれていることもあります。今一度健康診断結果を見直してみると良いでしょう。

 

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