糖尿病はさまざまな合併症を引き起こします。糖尿病性腎症もその1つです。この記事では、糖尿病性腎症の代表的な症状と治療法を解説したうえで、糖尿病性腎症の患者の方におすすめの食事レシピも紹介します。
糖尿病性腎症とは
糖尿病性腎症は、糖尿性網膜症、糖尿病性神経障害と並ぶ糖尿病の3大合併症の1つです。糖尿病性腎症は糖尿病と診断されてから5~15年程度で発症するといわれています。糖尿病性腎症の症状は、アルブミン尿に始まり、蛋白尿、高血圧やむくみが生じ、最終的には腎不全に陥り、腎臓が機能しなくなってしまいます。
なぜ糖尿病から糖尿病性腎症を発症してしまうのでしょうか。血液中の老廃物は腎臓にある糸球体と呼ばれる毛細血管の塊で濾過され、尿として排泄されます。血糖値が高い状態が続くと血管が障害されるため、糸球体が破壊され、老廃物がうまく濾過できなくなり、糖尿病性腎症を発症するといわれています。
特に、糖尿病と高血圧を併せ持つ人は腎臓への負担が大きいため、糖尿病性腎症の進行を早めてしまう傾向があります。糖尿病性腎症の病期は最も軽い「第1期:腎症前期」から「第5期:透析療法期」まで5つの段階にわかれています。病期ごとの症状や基準は以下のとおりです。
糖尿病性腎症の症状
糖尿病性腎症は進行するまで自覚症状がありませんが、進行すると以下のような症状が現れます。
・蛋白尿
・高血圧
・むくみ
それぞれの症状について以下で詳しく解説します。
蛋白尿
蛋白尿とは、正常範囲を超えた量のたんぱく質が、尿のなかに含まれている状態のことをいいます。健康な人であれば、たんぱく質は濾過されず老廃物だけが濾過されるため、少量しか尿のなかにたんぱく質は出てきません。
しかし糖尿病性腎症を発症すると腎臓の濾過機能が低下するため、血液中のたんぱく質が尿のなかに流出してしまうのです。
高血圧
糖尿病性腎症を発症すると、レニンと呼ばれる血圧を上げるホルモンが分泌されるため、血圧が上がりやすくなります。
さらに、高血糖状態が続くと血液の浸透圧が上がります。これにより、細胞から水分が出たり、腎臓から水分を吸収する量が増えるため、血液量や体液が増えることで高血圧を招くことになります。
糖尿病性腎症を発症した当初は、高血糖による悪影響が大きいのですが、第4期まで進行すると血圧による影響のほうが大きくなります。そのため、糖尿病性腎症を発症したら血糖コントロールと血圧管理が重要になります。
むくみ
むくみとは、いわゆる「顔や足がぱんぱんになる」状態のことをいい、体内の水分が異常に増えることで発症します。医療機関では、むくみが出たら腎臓病を疑うほど両者は深い関係があります。
腎臓が機能しなくなると尿があまり出なくなるので、飲んだ水分が体内に溜まってしまいむくみます。糖尿病性腎症で腎臓の機能が低下した場合も同じメカニズムでむくみが生じるようになります。糖尿病性腎症によるむくみは足に現れることが多いです。
糖尿病性腎症の治療
糖尿病性腎症の治療法は病期ごとに異なります。
第1~2期の期間は10~20年ほどかけて、ゆっくり進行しますが、第3期に入ると進行スピードが増します。第3期になると蛋白尿が出るようになります。ここまで進んでしまうと元の状態に戻すことはできないため、進行を遅らせるための治療を行うことになります。第4期からは透析療法が導入され、第5期になると透析療法を継続するか腎移植するしか選択肢がなくなります。
このように、糖尿病性腎症は、早期に発見して早期に治療を開始し、血糖コントロールを徹底する必要があります。
第3期の治療法のなかにたんぱく質制限とありますが、これは食事療法で行います。なぜ糖尿病性腎症の食事ではたんぱく質を制限するのでしょうか。3大栄養素のうち、脂質や糖質はエネルギーとして使われたあと、呼吸や汗で体の外に排出することができます。しかし、たんぱく質はエネルギーとして使われたあと老廃物となってしまいます。
このとき、老廃物を排出できる唯一の器官が腎臓になります。しかし、糖尿病性腎症を発症している方は腎臓の機能が低下しています。つまり、老廃物を濾過して排出する機能が低下しているということです。
そのため、これ以上腎臓に負担をかけないためにも老廃物の原料となるたんぱく質の摂取を減らす必要があるのです。次の章で、糖尿病性腎症の患者の方のための食事レシピを紹介します。
こちらも併せてご参照ください
糖尿病性腎症のステージ別症状|病期によって異なる自覚症状|内科専門医師が配信
糖尿病性腎症の食事レシピ
糖尿病性腎症の患者の方の食事では、塩分とたんぱく質、カリウムの制限が重要になります。ここでは調理時間が短く簡単に作ることのできるレシピを紹介します。
レンコンのきんぴら
引用元:腎臓にやさしいお料理レシピカード「レンコンのきんぴら」
●材料(1人分)
・レンコン 40g
・ニンジン 20g
・いり黒ゴマ 1g
・ごま油 4g
・醤油 6g
・みりん 6g
・砂糖 5g
・日本酒 6g
・鷹の爪 少々
●調理手順
・レンコンをひと口サイズに切って水に浸してアクを抜く
・ニンジンもひと口サイズに切る
・調味料を混ぜる
・フライパンにごま油を入れてレンコンとニンジンを炒める
・レンコンとニンジンに火が通ったら調味料を混ぜたものを入れる
・レンコンとニンジンに味が染みたら完成
●糖尿病性腎症への効果
腎機能が低下している場合、カリウムの排泄量が少なくなります。そのため糖尿病性腎症患者の方はカリウムの制限が必要です。
カリウムはさまざまな食品に含まれる成分ですが、野菜などの食物繊維は積極的に摂取したいものです。野菜は水にさらすことでカリウムをある程度減らすことができます。レンコンは不溶性の食物繊維が豊富ですので、水に浸してカリウムを減らすことで糖尿病性腎症患者の方にも取り入れやすくなります。
●調理に関するおすすめポイント
下茹での必要がないため、手軽においしく野菜の栄養を摂取できます。
いわしフライのタルタルソースがけ
引用元:腎臓にやさしいお料理レシピカード「いわしフライのタルタルソースがけ」
●材料(1人分)
・イワシ(15cm以内、生で開いたもの) 2匹
・卵 20g
・小麦粉 5g
・パン粉 10g
・塩 2g
・こしょう 少々
・タルタルソースの材料(マヨネーズ12g、玉ねぎみじん切り5g、レモン汁5g、ウズラ卵の缶詰10g、らっきょう5g)
●調理手順
・イワシに塩とこしょうをかけてなじませる
・タルタルソースの材料をよく混ぜる
・卵をとく
・イワシに小麦粉をまぶしてといた卵をつけてパン粉をつける
・180度の油でイワシを揚げる(細かい泡が出たら完成)
・揚げたイワシにタルタルソースをかけて完成
●糖尿病性腎症への効果
糖尿病性腎症の患者の方は、たんぱく質を制限しなければなりませんが、カロリーは必要量摂取しなければなりません。イワシを揚げることで必要なカロリーを確保できます。さらに、イワシにはDHAやEPAといったいわゆる「血液さらさら」成分が含まれているので血栓の予防に効果が期待できます。
●調理に関するおすすめポイント
イワシは比較的安価な魚なのでコスパにも優れています。
卵スープ
引用元:腎臓にやさしいお料理レシピカード「卵スープ」
●材料(1人分)
・卵(といておく) 1個
・玉ねぎ薄切り 20g
・生ワカメ(水につけて塩抜きしておく)3g
・青ネギこぐち切り 1g
・固形コンソメ 2g
・こしょう 少々
・水 150ml
●調理手順
・鍋に水、コンソメ、玉ねぎ、生ワカメを入れ、中火で加熱する
・玉ねぎが透明になったらといた卵を少しずつ入れる
・こしょうで味を調える
・火を止めて青ネギを入れて完成
●糖尿病性腎症への効果
卵はたんぱく質の塊ですので、腎臓病の方に敬遠されがちな食品です。しかし、卵は必須アミノ酸がバランスよく含まれているため、摂取量をコントロールすれば、良質なたんぱく質を摂取できます。
●調理に関するおすすめポイント
生ワカメはしっかり塩抜きしておかないと塩分を摂取しすぎることがあるため十分に塩抜きしましょう。
まとめ
糖尿病性腎症について説明しました。糖尿病性腎症は進行してしまうと元の状態に戻すことはできなくなります。
糖尿病と診断されたら血糖コントロールを徹底し、糖尿病を悪化させないことが大切です。また、糖尿病性腎症を発症しても初期段階で食い止めれば通常の生活を送れる可能性が高くなりますので、早期発見・早期治療が大切です。