糖尿病はとても身近な病気で、聞いたことがないという人は少ないと思います。皆さん自身や周囲にも、糖尿病の方や予備群と診断されている方は少なからずいると思います。
糖尿病は様々な合併症を引き起こしますが、大きく分けると細血管障害と大血管障害に分類されます。それでは、それぞれの合併症にはどのくらいの人がなるのでしょうか?また、糖尿病は生命予後にも影響するのでしょうか?今回はそのような疑問にお答えします。
糖尿病になる人はどれくらいいるの?
まずは、世界全体の動向です。2017時点で世界人口は約75億人でした。その中で20~79歳の人口は約48億4000万人であり、糖尿病の患者数は約4億2500万人で、有病率は8.8%でした。また、糖尿病予備群の人は7.3%でした。世界において、糖尿病患者か糖尿病予備群の人は約8億人もいます。
日本の動向はどうでしょうか。2016年時点での日本の人口は約1億2700万人でした。厚生労働省における調査では、「糖尿病が強く疑われる者」は約1000万人で、男性が16.3%、女性が9.3%でした。また、「糖尿病の可能性を否定できない者」も約1000万人で、男性が12.2%、女性が12.1%でした。1997年からこの調査を開始し、2016年に初めて1000万人を超えています。世界でも日本においても糖尿病の有病率は高く、徐々に増加しています。
2016年の糖尿病実態調査では、糖尿病の治療をしている人の割合も調査しています。糖尿病者の約1000万人の中で、治療している人の割合はたったの30%ほどで、未治療者が約700万人もいるという結果でした。
糖尿病の3大合併症になる人の割合は?
糖尿病の細小血管障害とは細い血管の血流が悪くなることで、特に細い血管が集中する場所に障害が起きます。具体的には眼や腎臓、神経系です。糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害は3大合併症と言われます。
最初は、糖尿病網膜症についてです。糖尿病を未治療の人で糖尿病網膜症を発症する割合は5年間で10%、10年間で30%、15年間で50%、20年間で70%と言われています。年間あたり約3000人もの人が糖尿病によって失明しています。
次に、糖尿病腎症についてです。腎臓の糸球体でろ過機能が障害されるのは、高血糖を継続して10~15年ほどと言われています。糖尿病が悪化し、透析治療を導入する人は年間あたり約15000人と推計されています。
最後に、糖尿病神経障害についてです。糖尿病を未治療の人では、糖尿病の発症から5~10年程で約3割の人が糖尿病神経障害を発症すると言われています。また、末梢神経障害や血流障害から糖尿病足病変を引き起こし、下肢の切断までに至る人は年間で約3000人と推計されています。
3大合併症はどれも糖尿病の発症からすぐに引き起こされるものではなく、長く未治療で放置した結果、引きこされることがわかります。
糖尿病によって大血管障害になる人の割合は?
高血糖が継続すると太い血管にも影響が出ます。動脈の内側に様々な物質が沈着し、厚くなって、硬くなります。これを動脈硬化と言います。動脈硬化の悪化により、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などを引き起こします。
糖尿病は動脈硬化性疾患の発症や死亡のリスクを2~3倍ほど増加させると言われています。2011年の調査報告では、1年間で1000人あたり冠動脈疾患が9.59件、脳卒中は7.45件、心筋梗塞は3.84件、脳梗塞は6.29件と報告されています。日本人の糖尿病による脳や心血管疾患の発症率は1000人あたり年間で17.2人で、日本の糖尿病患者約1000万人では、脳や心血管疾患発症者は約17.2万人と推定されています。
糖尿病は生命予後に影響するの?
糖尿病の合併症を伴うと、日常生活に影響が出たり、生活の質の低下につながります。大血管障害の場合は致死に至る場合もありますが、糖尿病になると生命予後にも影響するのでしょうか?この質問に関連する研究報告を紹介します。
日本における循環器疾患の基礎調査で、糖尿病罹患の有無で40歳からの余命を比較した追跡研究があります。糖尿病に罹患していない人の40歳からの余命は、男性が40.9歳、女性が47.5歳でした。一方で、糖尿病を罹患した人における40歳からの余命は、男性が32.3歳、女性が41.4歳でした。糖尿病になると、余命が男性で8.6年、女性で6.1年短縮するという結果でした。この結果から、糖尿病は生命予後にも影響を与え、糖尿病の予防や管理が重要であると言えます。
まとめ
日本における糖尿病者は約1000万人おり、予備群も同様に約1000万人もいます。初期の自覚症状が乏しいことから、未治療の人も多く、治療している人はたったの3割ほどしかいません。糖尿病は薬物療法や食事療法、運動療法によって予防することができます。しかし、放置しておくと様々な合併症が生じ、重篤な症状となります。今回紹介したように、各合併症を引き起こす割合は決して低い数値とは言えません。正しい知識を身につけて、糖尿病を予防しましょう。
<参考>
・斎藤重幸(2018) 「わが国の糖尿病のトレンド」,『日循予防誌』(第53巻3号),p.211-219.
・International Diabetes Federation(IDF).IDF DIABETES ATKAS-8th Edition.
http://www.diabetesatlas.org(2019年12月2日アクセス可能)
・Woodward M,Zhang X,BarZi F,et al.Asia Pacific Cohort Studies Collaboration.The
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