肝障害(肝炎など)の従来の治療法

肝機能障害では、以下の4種類が従来の治療法とされてきました。

①肝障害の原因への対処

原因を除去することが肝臓の機能を回復するための第一歩です。特に多い原因は下記のようなものです。

・ウイルス

ウイルス性の急性肝炎の場合、一部の例外を除いてほとんどは自然に落ち着くのを待ちます。症状が強ければ入院で安静にし、食事が取れなければ点滴を行うことがあります。

一方、B型/C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎の場合は治療が必要です。ウイルスを排除したり、増殖を抑えたりするための投薬を行います。

・アルコール

飲酒量が多いと、肝臓に脂肪がたまる「脂肪肝」をきたします。脂肪肝は放置すると肝硬変となり、さらには肝癌になることもあるのです。また、慢性的なアルコールによる肝障害がある方が大量飲酒をした場合、急性肝炎を起こし命に関わることもあります。

アルコールによる脂肪肝のいちばんの治療方法は、お酒を飲まないことです。

・生活習慣病や肥満

肥満や脂質異常・糖尿病などがある方では、お酒をほとんど飲んでなくても脂肪肝をきたします。食生活と運動習慣の見直しが最も重要です。

・薬剤性肝障害(DILI; drug-induced liver injury)

原因となっている薬を中止することが第一です。治療歴を振り返り原因薬剤を探します。症状が強ければ、安静や食欲不振時の点滴が必要です。薬剤性肝障害と診断された場合、同じ薬を再度使用することは禁忌となります。

②肝庇護療法

肝臓の炎症を落ち着かせて、肝硬変への進行を防ぐお薬です。いずれも根本的な原因を治療してくれるお薬ではありません。主に、下記の2種類の薬が使用されます。

1 . グリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンシー)

注射で投与するお薬です。炎症を抑え、肝細胞膜を保護する効果があります。

副作用として高血圧や、低カリウム血症を起こすことがあります。

2 . ウルソデオキシコール酸

内服薬です。胆汁の流れを良くし、肝細胞を保護する効果があります。便秘・下痢や胃のむかつきなどの消化器症状が起こることがあります。

③人工肝補助療法

肝臓が急激に悪くなり、必要な働きができない「急性肝不全」状態の時に、一時的に機械でその機能を代替えします。

肝不全に陥ると、体にとって必要なタンパク質が肝臓で合成できません。凝固因子(出血時に血液を固めて止血する成分)を作れなくなると、出血傾向を起こし、命に関わります。また、肝不全が起こると体内の毒性物質を解毒できなくなります。人工肝補助療法では凝固因子の補充と解毒を一時的に補助し、回復を待つのです。特に、有毒物質により意識障害を起こしている患者さんを覚醒させるのに有用です。

実際には、血漿交換と血液濾過透析を一緒に行うことが一般的です。

血漿とは、血液のうち、白血球・赤血球・血小板などの「血球成分」を除いたものを指します。血漿交換では、患者さんの血漿のみを分離し、健常な人からもらった血漿と入れ替えます。凝固因子の補充と有毒物質の除去が可能です。そして、血漿交換で取りきれなかった毒素を血液濾過透析で取り除きます。

血液を体から取り出して装置にかけ、再度体に戻すことを行います。そのために首や足の太い血管から太いカテーテルを留置しないといけません。留置時の出血や周辺組織の損傷の危険性があります。長期化すれば、カテーテルに感染が起こるリスクも否定できません。

入れ替えるための血漿は献血でいただいたものです。十分な検査をしていますが、すべての感染症を100%防げるわけではなく、未知のウイルスなどが混在する可能性が否定できません。他人からもらってきたものを体に入れるので、アレルギーのリスクがあります。

また、処置中に多い合併症として、血圧が下がったり、気分が悪くなったりすることがあります。

④肝移植

肝機能障害 手術

さまざまな治療を行っても回復しない急性肝不全の時や、肝硬変が進行してきている時などに、肝移植が検討されます。ダメージを受けた肝臓を取り除き、正常な肝臓と入れ替える、切り札となる治療です。

手術が必要ですので、相応のリスクがあります。全身麻酔に伴う合併症が起こる可能性、肝臓を取り出す際に周囲の臓器を傷つける恐れがあること、手術後の創部の感染のリスクなどが主なものです。また、移植後は拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤の内服を一生続けなければなりません。

肝移植には、生体肝移植と脳死肝移植の2つの方法があります。

1 . 生体肝移植

健康な方の肝臓の一部を、患者さんに移植する方法です。ドナー(提供者)になれるのは、基本的には自分の意思で提供を希望する配偶者や家族です。20歳以上65歳未満で、健康な人でなければいけません。施設によりさらに条件を厳しくしているところもあります。血液型が一致している方が望ましいですが、一部の施設では一致せずとも術前の処置を行えば移植は可能です。近年は血液型不一致でも治療成績が良くなってきています。

生体肝移植特有のデメリットとしては、ドナーの方の負担があります。ドナーも手術による合併症を負うリスクが否定できません。

2 . 脳死肝移植

脳死をされ、臓器提供の意思表示があった方からの移植になります。日本では脳死肝移植は非常に少ないです。生体肝移植と違って、多くの場合は肝臓全部を移植できるという点がメリットになります。

基本的にいつ肝移植ができるかは分かりません。そのため、待機時間が長くなる可能性があります。また、ドナーが決まったらすぐに手術が必要であるため、緊急手術となってしまうのもデメリットです。

肝障害の治療についてよくある質問

●肝障害ではどのような血液検査に注意すればいい?

複数の数値で肝障害の重症度などを判定します。下記によく提出される検査をあげます。

・肝逸脱酵素:AST(GOT), ALT(GPT)

肝細胞に含まれる酵素です。肝臓が障害を受けると血中に漏れ出すため高値になります。

・胆道系酵素:アルカリフォスファターゼ, γ-GPT, LAP

肝障害でも上昇しますが、胆汁の流れが悪くなると上昇する数値です。

・総ビリルビン

黄疸の具合を示す数値です。肝硬変の重症度の判定にも用います。

・アルブミン

肝臓で合成されるタンパク質です。肝硬変の重症度の判定にも用います。

・プロトロンビン活性

肝臓で合成される凝固因子に関連した検査です。肝硬変の重症度の判定にも用います。

・血小板

血を固めるための血液の成分ですが、肝硬変で減少します。慢性の肝障害がある方で10万を切ると肝硬変になっている可能性がある検査値です。

●薬剤性肝障害の原因になるのはどのような薬剤?

あらゆる薬剤が肝障害をきたします。安全と思われがちな漢方薬も原因になることがあるのです。サプリメントや健康食品も原因になりえます。ウコンやプロポリス、クマリン(シナモンに多く含まれる成分)など沢山の種類があります。お薬やサプリメントの使用中に食欲がない、体がきつい、黄疸が出たなどの症状を認めた場合は、早めに受診しましょう。

ほとんどのお薬は特異体質によるものですので、予想がつきません。ただし、いくつかのお薬については、投与量などと肝障害の発生に関連があるものがあります。

例えば、解熱鎮痛薬の「アセトアミノフェン」です。アセトアミノフェンを大量に服薬すると、中毒性の肝障害が起こり、食欲不振・悪心嘔吐や腹痛などの症状をきたします。このお薬の中毒の場合は「アセチルシステイン」を解毒のために使います。

また、「ボリコナゾール」という真菌(カビの仲間)に対する抗生物質は、肝障害の発生と血中濃度が関連している可能性が示唆されている薬です。そのため、投与中は肝臓の数値が悪化しないか観察するとともに、血中濃度の測定を行います。

まとめ・肝障害(肝炎など)の従来の治療法

肝障害が起こった時、原因への対応とともに、経過に応じて投薬をしたり、人工肝補助療法が用いられたりします。しかし、一部の方はそれでも良くならず、肝移植の適応となってしまいます。肝移植はダメージを受けた肝臓を取り除き、正常な肝臓と取り替えるという、いわば切り札になるものです。

しかしながら、手術が必要である以上、どうしても相応のリスクと体への負担があることも忘れてはいけません。

 

2023年7月 改稿

肝機能障害を治すには|新たな治療法「再生医療」について