糖尿病の初期段階は自覚症状がないため、糖尿病を発症しているかどうかは医療機関で検査しなければわかりません。糖尿病は、初期段階で治療に着手できれば通常の生活を送ることができますが、放置すると重大な合併症を引き起こすことがあります。
早期発見のためにも糖尿病検査は糖尿病治療においてとても重要です。
この記事では糖尿病の検査と診断方法について解説します。
糖尿病の検査項目
糖尿病検査には複数の検査項目があります。医師はこれらを総合的に確認することで「糖尿病」と診断します。
以下でそれぞれの検査項目の内容を紹介します。
空腹時血糖値検査
空腹時血糖値検査は血糖値検査の一種で、空腹時に採血を行い血液中にブドウ糖がどれくらいあるかを測定します。血液中のブドウ糖の濃度のことを血糖値といい、検査結果は「血液1dl中にブドウ糖が何mg含まれているか」を表します。
空腹時血糖値検査は10時間以上何も食べていない状態で行います。血糖値は食事をすると高くなるため、空腹時は血糖値が最も低く出るはずです。したがって空腹時血糖値検査で高い数値が出ると、糖尿病である確率が高いと推測できます。
また空腹時血糖値検査は治療効果を判断するときにも使います。
随時血糖値検査
随時血糖検査は、食後からの時間を決めずに採血して血糖値を測定する方法です。随時検討検査と空腹時血糖値検査の両方の結果を確認することで血糖値の変動がわかります。
75gOGTT(ブドウ糖負荷)による血糖値検査
75gOGTT(ブドウ糖負荷)血糖値検査とは、10時間以上絶食した検査対象者に75gのブドウ糖を水に溶かしたものを飲んでもらい採血を行います。採血は、ブドウ糖を飲む前(空腹時)、飲んでから30分後、1時間後、2時間後の計4回行います。
75gOGTTは食事による血糖値の影響を見るために行います。
尿検査
糖尿病の尿検査では、採尿し、尿糖(尿1dlのなかに糖が何mg入っているか)を調べます。
糖尿病の尿検査は、食前に行ったり、排尿してから食事をしてもらい食後2時間後に行ったりします。通常、血糖値が160~180mg/dlまで高くなると尿に糖が出てくるため、尿検査は主に糖尿病かどうかのスクリーニングを目的として行われます。
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)検査
ヘモグロビン(Hb)は、赤血球のたんぱく質の1つで、酸素を運搬する働きがあります。ヘモグロビンは血液中の糖と結合し、糖化ヘモグロビンに変化します。HbA1cはすべてのヘモグロビンのうち糖化ヘモグロビンがどれだけあるかを割合(%)で示したものです。
血糖値が高ければヘモグロビンと結合する糖も多くなります。
ヘモグロビンが作られてから壊れるまで120日かかるため、HbA1c検査によって過去1~2カ月間の血糖値の変動がわかります。
GA(グルコアルブミン)検査
アルブミンとは血液中を流れるたんぱく質で、血液中のアルブミンが糖にさらされて結合したものをグルコアルブミン(GA)といいます。アルブミンは作られてから壊れるまで約20日かかるため、GA検査によって1~2週間の血糖変動がわかります。
GA検査は全アルブミン量に占めるGAの割合を%で表したものです。
日本赤十字社では、献血に協力した方へのサービスとして、GAなどの生化学検査を行っています。そのため献血に行くとGAを計測してもらうことができます。
1,5AG(1,5アンヒドログルシトール)検査
1,5AG(1,5アンヒドログルシトール)は血液中の糖類のなかでブドウ糖の次に多いもので、ブドウ糖に似た構造をしています。
血液中の1,5AGは腎臓で濾過されたあと、99.9%が再吸収されます。1,5AGは多くの食品に含まれますが、健康な人であれば摂取した量と同じ量が排泄されるため、血中濃度は一定値を保ち、変動がほとんどありません。つまり、血糖のように食事による影響がほとんどないのです。
一方、構造の近いブドウ糖が血中で大量に増えると、腎臓でブドウ糖を再吸収することができず、尿中に排出されます。ブドウ糖は腎臓で1,5AGの再吸収を競合阻害するため、1,5AGの尿への排出量が増え、血中濃度が下がります。
つまり糖尿病を発症すると1,5AGが尿として排出され、血液中の1,5AGが減ることになります。したがって1,5AG検査は基準値より低いときに糖尿病が疑われることになります。
1,5AG検査では、血液1ml中に何μgの1,5AGが含まれているかを計測しており、基準値は以下となっています。
男性:15~45μg/ml
女性:12~29μg/ml
HbA1c検査は過去1~2か月、GA検査は過去1~2週間の平均の血糖値を見るのに対し、1,5AGは数日程度の短期間の血糖変化を見る目的で用います。
糖尿病と診断される基準
「糖尿病の診断基準」とは医師が「糖尿病である」と診断する基準のことです。2012年、日本糖尿病学会は新しい糖尿病診断基準を発表し、HbA1cの値も診断基準として用いることになりました。
新しい糖尿病の臨床診断のフローチャートは以下となります。
引用元:糖尿病情報センター「糖尿病の新しい診断基準」
診断基準はまず、「血糖値とHbA1c」または「血糖値のみ」または「HbA1cのみ」からスタートします。この3つの基準で糖尿病あるいは糖尿病型と判定できるかどうかを判断します。
「糖尿病型」については後述します。
糖尿病の診断方法
ここからは糖尿病の診断方法について解説していきます。
診断基準の組み合わせによって診断される
糖尿病の診断は、各種検査の結果を診断基準と照らし合わせ、症状や家族歴、体重歴なども含めて総合的に判断することになります。
診断にあたっては下記のいずれかを用います。
・糖尿病型を2回確認する ※少なくとも1回は血糖値による検査結果を含めること
・糖尿病型(血糖値の結果のみ)を1回確認+慢性高血糖症状がある
・過去に糖尿病と診断されたことがある
血糖値による糖尿病の診断
糖尿病はある日突然発症するものではなく、徐々に血糖値が高くなり糖尿病と診断される状態にいたります。医療機関では、正常な状態から糖尿病にいたるまでの段階を症状や状態ごとに「正常型、境界型、糖尿型」の3つにわけ、それぞれの段階に応じて対応しています。
こちらも併せてご参照ください
糖尿病と診断されるHbA1cと血糖値とは|目標値も解説
正常型の判定
以下の2条件をともに満たすときは正常型と判定されます。
・空腹時血糖値110mg/dl未満
・75gOGTT(ブドウ糖負荷)による食後2時間の血糖値140mg/dl未満
ただし、正常型に該当する場合でも、空腹時血糖値が100mg/dl以上の場合は「正常型」でのなかでも「正常高値」と判定されます。正常高値に該当する人は病態に応じて経過観察を行い、OGTTを勧めることがあります。
正常型とはあくまで糖尿病型への悪化率が年1%未満の状態のことをいいます。正常型であっても、OGTTの値が高い場合は糖尿病型に進むケースもあります。
境界型の判定
境界型は、糖尿病型とも正常型にも含まれない状態のことをいいます。具体的には以下の2つのいずれかに該当するとき境界型と判定されます。
・空腹時血糖値110mg/dl以上126mg/dl未満
・75gOGTT(ブドウ糖負荷)による食後2時間の血糖値140mg/dl以上200mg/dl未満
病態や家族歴によっては、境界型の患者の方に、再検査や他の検査を受けることを勧めることがあります。
境界型の患者の方は糖尿病型に悪化する確率が高いだけでなく、動脈硬化性の合併症の発生頻度が増加する傾向があります。そのため、境界型と診断した患者の方に対し、医師は食事療法や運動療法を指導し、肥満解消を勧め、定期的に検査することになります。
糖尿病型の判定
以下のいずれかの条件に該当する場合は糖尿病型と判定されます
・空腹時血糖値126mg/dl以上
・75gOGTT(ブドウ糖負荷)による食後2時間の血糖値200mg/dl以上
・随時血糖値200mg/dl以上
・HbA1c 6.5%以上
3つの血糖値検査のうちいずれかの値とHbA1cの値がいずれも糖尿病型であると判断された場合は糖尿病と診断されます。また、血糖値のみが糖尿病型と判定された場合は、別の日に検査を行い、2回とも糖尿病型であることが確認された場合は糖尿病と診断されます。
HbA1cのみが糖尿病型であると判定された場合も再検査を行いますが、血糖値が糖尿病型であるという結果が出た場合にのみ糖尿病と判定されます。HbA1cのみの検査で判断することはありません。
ただし、必ず1回は血糖値による検査で糖尿病型であることが確認されていることが必要です。さらに、血糖値のみが糖尿病型で、糖尿病の典型的な症状または確実な糖尿病網膜症がある場合など一定の条件を満たす場合も糖尿病と診断されます。
まとめ
糖尿病の診断基準と診断方法について説明しました。糖尿病の検査にはさまざまな種類があります。複数の検査を組み合わせることで、健康診断などの血糖値検査では見つけにくい糖尿病なども発見しやすくなります。
気になることがある場合は医師に相談し、積極的に検査を受けることが大切です。
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