糖尿病の患者さんで食事療法や運動療法を試みても血糖値が下がらない。そんな方には体質や症状に合う薬物治療が必要となります。
こちらでは、2型糖尿病の方に適用される血糖値を下げる糖尿病治療薬について、特徴や薬の副作用、どんな人に向いている薬なのか、飲み方の注意点など詳細情報を一覧で紹介していきます。
糖尿病薬一覧
糖尿病に有効な薬物療法のうち、とくに2型糖尿病の治療で広く使われているのが、経口血糖降下薬です。
食事療法や運動療法による血糖コントロールが難しい場合、病状やそれにともなうコンディション、高血糖状態に合わせて経口血糖降下薬が用いられます。
経口血糖降下薬の特徴は、次の3つに集約されます。
- インスリンの分泌を増やす
- インスリンの作用を向上させる
- 糖の吸収を助け、排泄を調節する
3つの作用機序により分類された薬を、合併症の有無や病態に応じて使用し、経過をみる方法が一般的です。1剤もしくは2剤以上を併用します。
ここからは糖尿病治療薬の詳細情報を8つ紹介していきます。
①スルホニル尿素(SU)薬
スルホニル尿素(SU)薬の特徴を簡潔にまとめると、次のとおりです。
- もっとも古いタイプの経口血糖降下薬:1950年代に登場。これまでに多くの薬剤が販売される
- 血糖値の確実な下降に期待:強力なインスリン分泌刺激作用は服用後すぐに効果を発揮
- まずは少量投与から:効き目が強いため、少量投与であっても低血糖のリスクあり。
薬の作用
インスリンを活発化させて血糖値の上昇を抑制する治療薬です。
有効成分がすい臓のランゲルハンス島に浸透し、そこのβ細胞に直接働きかけてインスリン分泌を促進。基礎分泌量および追加分泌量を増加させることで、血糖を下げていきます。
インスリンへの分泌刺激はしばらく持続し、血糖コントロールを助けます。
主な副作用
血糖値の改善がみられる一方、低血糖に注意する必要があります。食前や、いつもと違う時間に食事をとったりすると、影響を受けやすくなるでしょう。
そのほかにも、腎機能・肝機能が低下した方、高齢者の方は、低血糖への十分な配慮が求められます。
SU薬はインスリン分泌刺激作用がとくに強い薬のため、血糖を下げる力が極めて強力です。服用時は、低血糖になった場合の対処法について熟知し、何かあればすぐに主治医に相談しましょう。
この薬での治療が向いている患者
食事療法・運動療法だけではインスリン分泌量に改善がみられず、空腹時血糖値が高め、かつ肥満でない人に用いられる薬です。
すい臓でインスリンは分泌できるものの、十分な分泌量をキープできないため血糖値の上昇は止められないので、インスリン分泌をサポートする目的で使用されています。
飲み方の注意点
SU薬は、食事療法や運動療法をしっかりこなした状態で服用してこそ効果が持続します。
食事・運動療法ができていない状態で服用を続けていると、食べすぎや運動不足から肥満化が進み、血糖値が上昇してしまいます。
その結果、薬を増量しなければ対応できず、体に負担がかかってしまいます。
食事・運動でコンディションを整えた状態でも、次第にSU薬の効果が薄れるケースもあります。
高血糖状態が続き、薬を長期使用しているとβ細胞の働きが低下してしまい、インスリン分泌の働きが弱くなってしまうのです。
この場合では、他の薬との併用や切り替え、あるいはインスリン療法へ移行するなど柔軟な対応が望まれます。
一般名・商品名一覧
現在トルブタミド~グリメピリドまで、7種のスルホニル尿素(SU)薬が販売されています。
種類により、使用する時間・効き目の強さなどが異なります。
患者の方の血糖値やインスリンの働き具合を計測しつつ、薬剤の特性と照らし合わせながら、最適とおもわれる商品を医師が選択します。
②速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
速攻型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)の特徴は次の3点です。
- メカニズムはSU薬と酷似:作用メカニズムはSU薬と同じながら、吸収・分解がさらに速い
- 服用は主に食後:服用から約30分後に効果が現れ、約60分後に最大化、約4時間後に消失
- 副作用は低血糖:肝機能・腎機能障害がある方はとくに注意
薬の作用
2型糖尿病でインスリンの分泌力が低下している方は、血糖を速やかに低下させる力が慢性的に落ちている状態です。
これを改善するには、血糖の上昇にインスリン分泌のスピードを合わせる働きかけが必要となります。速攻型インスリン分泌促進薬は、そのスピードを高め、食後の血糖上昇を抑える効果を持っています。
分泌スピードに重きを置く薬のため、食後のインスリン分泌量の増加はSU薬ほど認められません。
主な副作用
効果の現れがはやい反面、こちらも低血糖を招く可能性があります。毎食直前の服用時間をきちんと守るようにしてください。
同時に、低血糖の症状やその対策について把握しておくことも大切です。対処法としては、ショ糖(砂糖)20gを常に携行する、などがあります。
この薬での治療が向いている患者
インスリン依存がみられず、食事・運動療法といったアプローチでも改善がなかなかみられない、なおかつ食後に高血糖がみられる。
そのような状況の2型糖尿病の方に向いています。すでにSU薬を使って治療を受けている患者さんには不向きの治療薬です。
飲み方の注意点
速攻型インスリン分泌促進薬を使う前提として、食事療法・運動療法がきちんとこなせている状態が求められます。
服用のタイミングは毎食の食前。食後の服用は絶対に避けてください。また、SU薬との併用も禁止です。
はやいタイミングでの服用は低血糖リスクを高めるため、服用時間を必ず守るようにしましょう。
この薬は原則、「SU薬を用いる前に使用する薬」という位置付です。SU薬を使用しても効果がみられない状態は、糖尿病がかなり進行していると予想されます。
その場合は病態とインスリン分泌力に合わせ、別の治療薬が用いられます。
一般名・商品名一覧
現在、3種類の速攻型インスリン分泌促進薬が販売されています。
③DPP-4阻害薬
DPP-4阻害薬の主な特徴は以下のとおりです。
- 低血糖リスクが小さい:単独使用では低血糖の可能性は低い
- 肥満防止に役立つ:血糖コントロールの改善で体重が増加しにくい
薬の作用
血糖値が高いときにインスリンの分泌を促す「インクレチン」と呼ばれるホルモンの働きを助ける治療薬です。
インクレチンには、血糖値を上げるホルモン「グルカゴン」の分泌を抑制する作用も持ちます。
主な副作用
低血糖、便秘などの副作用に注意してください。とくに、スルホニル尿素(SU)薬の服用経験があるうえでの使用は、低血糖のリスクが高まります。
この薬での治療が向いている患者
DPP-4阻害薬は、単独使用であれば低血糖のリスクを軽減できます。ほかの薬に頼らず、DPP-4阻害薬のみの服用で血糖値をコントロールできる人に向いた薬です。
経口血糖降下薬のなかでも低血糖のリスクは低い薬ですが、肝障害、腎障害を抱えた患者さんは用心してください。
飲み方の注意点
ほかの薬と併用すると、低血糖が起きやすくなるので、なるべく単独で使用がすすめられています。スルホニル尿素(SU)薬と併用、肝障害、腎障害の方はとくに気をつけてください。
一般名・商品名一覧
現在、DPP-4阻害薬はトラゼンタ、テネリアなどを含め次の9種が市販されています。
ほかの治療薬と同様、患者の方の症状、糖尿病の進行度合いなどをみて、医師が最適な薬を選択します。
④ビグアナイド薬
ビグアナイド薬の主な特徴は以下のとおりです。
- SU薬の後発:SU薬より数年遅れて販売される
- 主に肝臓に作用:肝臓の糖の放出を抑制
- 低血糖になりにくい:インスリン分泌を刺激しないため、他の薬を併用しない限り低血糖の危険性が低い
薬の作用
ビグアナイド薬は、インスリン抵抗性で過剰になった肝臓の糖新生を抑制する働きを持つ治療薬です。
糖新生とは、肝臓で乳酸やアミノ酸などのブドウ糖以外の物質から糖を産生する過程をいいます。
インスリンはこの糖新生を適度にコントロールする働きがあるのですが、インスリン分泌機能が低下した2型糖尿病の方は、糖新生が慢性的に過剰状態となります。
過剰になった糖新生を抑え、空腹時血糖を下げる目的で、このビグアナイド薬が用いられます。
主な副作用
消化器系統が影響を受けやすく、吐き気や食欲不振、下痢などを起こす場合があります。
また、倦怠感や筋肉痛なども報告されているため、万が一これらの症状が確認されたら必ず主治医に相談してください。
この薬での治療が向いている患者
肥満型で、インスリン抵抗性による高インスリン血症が認められる2型糖尿病との相性がよい薬です。肥満でない方が使用しても血糖コントロールが改善される場合もあります。
飲み方の注意点
服用と同時にアルコールの摂取、そのほかの薬剤およびインスリン療法治療薬との併用は、低血糖リスクを高めます。
まれにですが、血液中に乳酸がたまり、意識障害を起こす「乳酸アシドーシス」を発症することがあります。
また、心臓・肝臓・腎臓・肺に障害がある方や循環器系に障害がある場合の服用は認められていません。
一般名・商品名一覧
現在、ビグアナイド薬として利用できるのは以下の2種類です。
肥満体質でない方も服用できますが、最終的には主治医が判断します。
⑤インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン薬)
インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン薬)の特徴は以下のとおりです。
- 血糖値降下作用:インスリンに対する感受性を高め、血糖値を下げる
- 低血糖の可能性は低い:単独使用であれば、低血糖のリスクを軽減できる
薬の作用
インスリン抵抗性改善薬には、インスリン抵抗性の主因である脂肪組織に働きかけ、抵抗物質を減少させる作用があります。
インスリンの分泌力に問題がなくても、肝臓や骨の組織、脂肪組織でのインスリン反応が鈍化していれば、その効き目は弱まり、血糖値の上昇を招く可能性が高まってしまいます。
そのインスリン抵抗性を引き起こす主な原因が肥満のため、インスリン抵抗性の改善では脂肪組織への作用が重要なのです。
主な副作用
まれに肝機能障害を引き起こすことがあります。もともと肝臓に不安のある方は、定期的な肝機能検査が必要です。肝機能障害の重症度によっては、服用が認められません。
本薬を使用すると、体内に水分がたまりやすくなります。そのため、心不全の合併、もしくは過去に心不全を起こしている場合は、インスリン抵抗性改善薬は使用できません。
また、低血糖の可能性は低いものの、浮腫、貧血などの副作用が起こることもありえます。血清LDH、血清CPKの上昇にも注意が必要です。
この薬での治療が向いている患者
肥満タイプで、インスリン抵抗性による高血糖が原因の糖尿病患者の方に有効です。肥満でない方が用いても問題ありません。SU薬との併用でも用いられます。
飲み方の注意点
食事療法で体質改善ができていない状態で服用すると、体重が増加してインスリン抵抗性状態に逆戻りする場合があります。そのため、食事療法も並行してしっかりと行うことが大切です。
一般名・商品名一覧
現在、インスリン抵抗性改善薬は「ビオグリタゾン塩酸塩」のみ販売されています。
アクトスは、肥満タイプでインスリン抵抗性の激しい糖尿病患者さんに有効です。
⑥α-グルコシダーゼ阻害薬
α-グルコシダーゼ阻害薬の特徴は下記のとおりです。
- 小腸の糖の消化・吸収を遅らせる:α-グルコシダーゼの働きを阻害し、糖質の分解を抑制
- 体重が増加しにくい:食後の血糖値を抑えるため、肥満防止につながる
- 低血糖になりにくい:単独使用であれば低血糖の心配はなし
薬の作用
α-グルコシダーゼ阻害薬は、小腸でブドウ糖を分解する「α-グルコシダーゼ」という酵素の働きを阻害することで、食後の血糖値の上昇を抑える効果を持ちます。
インスリンには、分解されて血液中に送られたブドウ糖をエネルギーに変え、各組織に送る役割があります。
健康体であればブドウ糖の処理もスムーズですが、インスリン分泌力が低下している糖尿病の方だとブドウ糖の処理が間に合わず、血糖値の上昇を招くことになるのです。
このアンバランスを改善するには、α-グルコシダーゼの働きを阻害し、ブドウ糖の消化吸収を遅らせる必要があります。この作用により、食後の血糖値上昇を防ぐことができるのです。
主な副作用
初期はお腹の張りやおならの増加、下痢など消化器系統の症状に悩まされる場合もあります。
これらの症状は一時的なもので、服用をしばらく続けるうちに改善していくため過度に心配することはありません。
この薬での治療が向いている患者
空腹時血糖値は高くないが食後に血糖が上がってしまう、軽度の2型糖尿病の方に処方されます。中レベルの症状の方に対しては、ほかの薬との併用パターンで治療が試みられます。
飲み方の注意点
食前の服用が大原則です。単独使用では低血糖の可能性は低いのですが、SU薬などほかの薬との併用では血糖値の異常低下が起こりえます。
本薬を使用中に低血糖が起こった場合は、必ずブドウ糖を摂取してください。ただしブドウ糖の分解を抑えているため、低血糖はすぐには改善されません。
一般名・商品名一覧
現在、α-グルコシダーゼ阻害薬は、アカルボース、ボグリボース、ミグリトールの3種の商品が販売されています。
※上記商品一覧は代表する一部の商品です
軽症の2型糖尿病の方に使用される薬ですが、医師の判断によりほかの薬との併用もあります。
⑦SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬の主な特徴は次のとおりです。
- 腎臓に作用して血糖を下げる:尿中に糖を排出させることで、血糖を下げる
- 腎臓機能の負担はなし:腎機能が低下している人でも影響はない
- ほかの治療薬への影響は少ない:ほかの薬との併用でなければ低血糖のリスクなし
薬の作用
SGLT2阻害薬は、腎臓内のブドウ糖の吸収を抑えることで、血糖コントロールを是正します。
腎臓には「糸球体」と呼ばれる、原尿を生成する、ろ過装置がありますが、血液中の糖分はここを通らずそのまま尿として排泄されます。
その一方で、体に取り込むための糖は腎臓の尿細管を通り、そこで再度取り込まれ、血液に戻されます。
SGLT2阻害薬は、この尿細管を通るブドウ糖の血中取り込みを防ぎ、尿中に糖を放出して血糖値を下げる作用があるのです。
主な副作用
服用中は性感染症や脱水症状、頻尿などに注意してください。インスリン分泌への働きかけはないため単独使用では低血糖の恐れはありません。
ただし、ほかの薬との併用には注意する必要があります。また、高齢者には上記以外の副作用も考えられますので、医師から説明を受けたうえで服用するようにしてください。
この薬での治療が向いている患者
食事療法・運動療法では十分な血糖値の改善がみられない方に使用されます。肥満傾向の方への服用例も少なくありません。
飲み方の注意点
薬だけに頼るのではなく、医師管理のもとでの食事、適度な運動も治療として取り入れながら改善を目指しましょう。
飲み忘れや決められた時間以外での服用は、効果が弱くなるので注意が必要です。生活上の理由で服用が困難な場合は、医師に相談し、ライフスタイルに合う服薬の方法を提案してもらいましょう。
一般名・商品名一覧
現在、SGLT2阻害薬はフォーシガ、スーグラをはじめ、6種類の商品が販売されています。
いずれを選ぶにしても、症状や経過をみて医師が判断します。
⑧配合薬
配合薬とは、いくつかの薬を組み合わせた治療薬です。飲む薬の数を減らせるため、服薬が楽になるメリットがあります。
薬の作用
配合されるそれぞれの薬の持つ作用機序を利用して、血糖値の改善を試みます。
具体的な例を挙げれば、「ピオグリタゾン塩酸塩+メトホルミン塩酸塩(メタクト配合錠LD/HD)」があります。ピオグリタゾン塩酸塩はチアゾリジン薬で、インスリン抵抗性の改善効果を持つ治療薬です。
メトホルミン塩酸塩は、ビグアナイド薬で、これは糖新生を抑えて血糖値をコントロールする働きがあります。
主な副作用
配合される薬の副作用に注意が必要です。インスリン分泌に直接作用を及ぼす薬は、低血糖のリスクがあります。
この薬での治療が向いている患者
配合対象の薬と、患者さんの病態、インスリン分泌力をみながら、医師がどの薬との配合が適切か判断します。
肝機能や腎機能に障害を抱える方は、肝臓・腎臓への負担が少ない薬が選ばれるでしょう。
飲み方の注意点
それぞれの薬の特徴、服用時の注意点に合わせて飲むようにしてください。体に合わない、体調不良などの異変を感じた場合は、すみやかに医師に相談しましょう。
一般名・商品名一覧
現在、配合薬は以下の8種の商品が販売されています。
配合薬を選ぶ場合も、患者さんの状態をよく知る主治医が最終的に判断します。
まとめ・血糖値を下げる糖尿病薬の一覧|その特徴や副作用について解説
今回紹介した糖尿病薬で経口血糖降下薬を、「インスリンに作用するもの」「インスリン以外に作用するもの」「インスリンにもインスリン以外にも作用するもの」に分類します。
インスリンに直接作用するか、しないかで低血糖リスクの有無が分かれます。
いずれの薬を処方されるにしても、医師のアドバイスを受けながら、ルールを守って服用してください。以上、糖尿病治療で血糖値を下げる飲み薬について記させて頂きました。
監修:院長 坂本貞範
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