糖尿病の治療では食事や運動など患者自身の取り組みが重要です。
しかし、食事で予防できることはわかっても、運動で本当に予防できるのか心配という人もいるでしょう。また、糖尿病を予防するために運動を取り入れるとしても、どのような運動が効果的かわからないですよね。
この記事では糖尿病と運動の関係を解説、効果的な運動方法や運動をするときの注意点もあわせて紹介します。
糖尿病は運動で予防ができる
糖尿病は血液中の糖の濃度(血糖値)が高い状態が続く病気です。高血糖の状態が続くと血管にダメージを与え、合併症を招きます。
運動には血糖値の上昇を抑え、血糖値を下げる効果があります。以下で詳しく見ていきましょう。
運動は血糖値の上昇を抑える
食事をすると血糖値が上がります。
ニュージーランドのオタゴ大学によると、食後の10分間のウォーキングが食後血糖値の上昇を抑える効果があることを発表しました。血糖値が高くなるのは食後1時間といわれているため、このタイミングで運動を行うと食後血糖値の上昇を抑えることにつながります。
筋肉量UPで血糖値が下がる
通常、血液中の糖は細胞に取り込まれ、エネルギーとして消費されるため、血糖値は下がります。血液中のブドウ糖を最も多く取り込むのは筋肉ですので、運動によって筋肉が増えると血糖値を下げる効果が期待できます。
筋肉率は筋肉量と体重がわかれば計算できます。
筋肉率(%)=筋肉量(kg)÷体重(kg)×100
筋肉量は以下のようにして計算できます。
筋肉量(kg)={体重(kg)-(体重(kg)×体脂肪率(%))}÷2
体重から体脂肪量を引いた残りの半分が筋肉量になります。
例えば、体重60㎏、体脂肪率23%の人の筋肉量は23.1㎏となります。目安となる筋肉率は以下となります。
なお、筋肉の量は年齢とともに減少します。
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糖尿病における運動療法とは│効果を引き出す運動のコツ|内科専門医師が配信
糖尿病を予防する運動方法
糖尿病を予防するにはどのような運動方法が適しているのでしょうか。以下で糖尿病の予防におすすめの運動を紹介します。
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有酸素運動
有酸素運動とは水泳やウォーキングなどの全身運動のことです。酸素を使って脂肪や糖を燃焼して行う運動になります。
有酸素運動には次のような種類があります。
・ウォーキング
・ジョギング
・水泳
・エアロビクス
・サイクリング
有酸素運動を行うと筋肉への血流が増え、ブドウ糖の消費が進むため、血糖値が下がります。
有酸素運動の時間や強さは体形や年齢、健康状態によって変わりますが、ウォーキングなら1回15~30分、1日2回、週3日行うのが目安になります。
仕事が忙しくていまとまった時間が取れないという人は日常生活のなかに歩行などの運動を取り入れる工夫をすると良いでしょう。例えば、通勤に鉄道やバスなどを利用しているのであれば、一駅前で降りて歩くといったことも良いでしょう。
始めは無理のない範囲でスタートして、体が慣れてきたら頻度や回数、運動時間を増やすと良いでしょう。
レジスタンス運動
糖尿病予防では、有酸素運動と一緒にレジスタンス運動を行うことが推奨されています。
レジスタンス運動とは筋肉に抵抗(レジタンス)をかける運動です。レジスタンス運動を行うと筋肉量が増えるため、血糖値を下げる効果が期待できます。
レジスタンス運動には次のようなメニューがあります。
・マシンを使った筋トレ
・ダンベルを使った筋トレ
・スクワット
・腕立て伏せ
・腹筋
レジスタンス運動の目安は、1種目10回2~3セットを週2~3回になります。
有酸素運動は筋肉への血流を増やし、レジタンス運動は筋肉量を増やします。有酸素運動とレジタンス運動は単独で行うより、2つの運動を組み合わせて行うほうが糖尿病予防効果がアップします。
日常や室内でもできる効果的な運動
糖尿病予防で行う運動で大切なのは継続することです。
ジムやプールに通う必要がある運動メニューだとなかなか継続できないという人もいるでしょう。このような場合、室内で行える運動や日常生活に取り入れることができる運動を続けると良いでしょう。
ウォーキング(速歩き)
まとまった時間が取れない場合、日常生活の歩行を速歩きに変えるだけで血糖値低下効果が高まります。
速歩きは以下のポイントを押さえて行うと、さらに糖尿病予防効果が期待できます。
・肩の力を抜く
・背筋を伸ばして胸を張る
・両腕を大きく振る
・歩幅を広くする
・かかとから着地する
・足を伸ばす
・顎(あご)を引く
ウォーキングを行うときは、自分の足に合った靴や歩きやすい服装を選ぶことも大切です。靴はクッション性の高いソールの厚い靴が良いでしょう。
室内で行う簡単な筋トレ
筋肉を鍛えるレジスタンス運動も室内で行ったり日常生活に取り入れたりすることができます。
例えば以下のような動作もレジスタンス運動になります。
・椅子から立ったり座ったりを繰り返す
・椅子を使ってスクワット運動を行う
・会社や駅構内ではエレベーターやエスカレーターは使わず階段を使う
・足を上げたり下げたりする
スクワットや腹筋運動、腕立て伏せは自宅でもできますよね。テレビを見るときソファに横になるのではなく、スクワットをしながら見るなど工夫してみてはいかがでしょうか。
糖尿病予防に効果が出る運動時間・強度・頻度
体が慣れてきて本格的に糖尿病予防のための運動に取り組める準備が整ったら、効果が出る時間・強度・頻度を意識した運動メニューをつくってみましょう。
運動時間
糖尿病予防を目的に有酸素運動を行う場合、ウォーキングであれば1日1万歩が目標です。1日1万歩の消費エネルギーは160~240kcalになります。もし1日1万歩歩くことが難しい場合は、これに相当する運動を行うと良いでしょう。
体重60㎏の人が100kcalを消費するための運動は次のとおりです。
・軽い散歩30分
・軽い体操30分
・速歩きのウォーキング25分
・自転車(平地)20分
・ゴルフ20分
・ジョギング(強め)10分
・自転車(上り坂)10分
・テニス10分
・水泳(クロール)5分
このなかから毎日2~3項目ずつ選んで実行すると1日1万歩と同等の効果が得られることになります。
レジスタンス運動は1回20~60分、1週間に150分以上を目安に行うと良いでしょう。レジスタンス運動を週150分以上行うと糖尿病の発症リスクが34%減少するといわれています。また、有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせて週150分以上行うと糖尿病の発症リスクが59%減少することもわかっています。
それでも「運動する時間を毎日確保することは難しい」という人もいるかもしれません。実は週59分以下の少ない運動量であっても糖尿病の発症リスクは12%減少することがわかっています。つまり1日10分程度であっても運動を継続すると糖尿病の予防につながるということになります。
食後1時間は最も血糖値が高くなります。そのため、食後1~2時間に運動を行うと効果的です。
運動強度
糖尿病予防の運動では、「ややきつい」と感じる程度で行うのが目安です。脈拍数を測ると適切な運動強度がわかります。運動を行う際は脈拍を測りながら行うと良いでしょう。運動時の脈拍数の目安は以下の計算式で算出できます。
運動時の目安の脈拍数(回/分)=(220-年齢)×0.5
脈拍は手首の動脈に指を置くことで測定できます。「わざわざ脈拍を測りながら運動したくない」という人は「一緒に歩いている人とおしゃべりできるくらい」を目安にしてみてください。
運動頻度
運動頻度は、週3日ぐらいからスタートして、体が慣れてきたら毎日行うようにしましょう。まとまった時間が取れない人は、日常生活でできる運動を取り入れたり、家でできる運動を増やしたりと、こまめに体を動かす習慣を身につけてください。
運動を行う時の注意点
運動を行うときは、以下の点に注意し、持病や不安がある方は医師に相談して行うようにしましょう。
・準備運動を行う
・軽い運動量から初めて徐々に増やしていく
・毎日が目安だが、体調に合わせて無理をしない
・楽しみながら行う
・ストレスを溜めない
・十分な睡眠をとる
まとめ
運動が糖尿病予防に効果的であることを説明しました。まとまった時間が取れないという人は、日常生活や室内でできる運動などを取り入れることから始めてみましょう。運動を始める際は、無理のない範囲で始め、継続して行うことが重要です。