糖尿病とは血糖値が高い状態が続くことです。
いまや糖尿病は「国民病」と呼ばれるほどポピュラーな病気ですが、場合によっては入院となるケースもあります。
この記事では血糖値がどの程度だと入院と判断されるのか、極度の高血糖による合併症の症状や予防法について解説します。
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血糖値だけで入院の判断はされない
血糖値は食生活の乱れや肥満、運動量の低下、ストレス、年齢などによって高くなることがあります。血糖値が高いからといってすぐに入院するわけではありません。以下で詳しく見ていきます。
血糖値が高く持病や合併症がある場合は検査入院
検査結果によって、医師から「専門医の診察が必要」と判断されることがあります。専門医の診察が必要と判断されるケースには以下のようなものがあります。
・血糖コントロールが不可の状態が3か月以上続く
・インスリン療養が必要なインスリン依存状態
・糖尿病ケトアシドーシスなどの急性合併症がある場合
特に、動脈硬化などの合併症や視神経や腎臓に持病がある場合は「検査入院が必要」と判断されることが多いです。一方、糖尿病ケトアシドーシスや意識障害など高血糖による急性合併症がある場合は、インスリン治療などの治療入院になります。
血糖値をコントロールするための教育入院
糖尿病で入院するケースとしては、検査入院や治療入院のほかに教育入院もあります。教育入院とは、14日程度入院し、血糖値を下げるための食事療法や運動療法、薬物療法を行い、知識や手法を習得する目的で行うものです。
糖尿病教育入院によって血糖値を下げることはできますが、下がった血糖値を維持するためには自宅に戻ってからも食事療法や運動療法などを継続して行う必要があります。
血糖値500mg/dl以上は意識障害を招く可能性があるので即入院の可能性も
「糖尿病の疑いがある」と判断される血糖値は空腹時血糖値126mg/dl以上(随時血糖値または75g経口ブドウ糖負荷試験2時間血糖値が200mg/dl以上)になります。血糖値が500mg/dl以上になると、極度の脱水症状を起こし、意識障害につながることがあります。
糖尿病は発症原因によって大きく1型糖尿病と2型糖尿病に大別されます。1型糖尿病はほとんどインスリンを分泌することができない(インスリンの絶対的不足)ため高血糖を引き起こします。
一方、2型糖尿病はインスリン抵抗性によってインスリンが分泌されても作用しにくくなることやインスリンの分泌量が減ること(インスリンの相対的不足)によって高血糖になるといわれています。
インスリンの相対的不足の状態と暴飲暴食や風邪などの感染症、ストレスなどが重なると血糖値が500mg/dl以上になることもあります。
意識障害の兆候としては、のどが異常に乾くことや多尿による脱水症状などがあります。この脱水症状によって体のなかの電解質のバランスが崩れ、下痢や腹痛、全身の倦怠感を引き起こします。
症状が進行してしまうと昏睡状態に陥るため、早急に入院する必要があります。
異常な高血糖で意識障害や昏睡を招く急性合併症
血糖値が異常に高くなると急性合併症を発症し、意識障害や昏睡を引き起こすことがあります。意識障害や昏睡を招く急性合併症とはどのようなものか見ていきます。
糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡の症状
糖尿病性ケトアシドーシスは高血糖の症状や嘔吐、悪心、脱水症状、低血圧などの症状を起こします。子供の場合はこれらの症状に加えて腹痛を起こすこともあります。さらに、糖尿病性ケトアシドーシスは血液中にケトン体が増えるため、呼気に含まれるアセトンによって果物のような香りの息を吐くことがあります。
糖尿病性ケトアシドーシスの症状が進行すると意識障害や昏睡状態に陥り、最悪の場合は死にいたる可能性もあります。
1型糖尿病の場合に糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡が起きる原因
糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡は1型糖尿病患者に多く見られます。
1型糖尿病患者では、インスリン投与を中断したことや、感染症などの生理的ストレスによって、インスリンをいつもと同じように投与してもインスリンが代謝されてしまい高血糖になることが原因で発症します。
生理的ストレスになりうるものには、ほかにも心筋梗塞や外傷、すい炎、脳卒中などがあります。
インスリンの作用不足があると血液中のブドウ糖をエネルギーとして使うことができません。そのため、筋肉などのたんぱく質や脂肪細胞を分解してエネルギーを得ることになります。
このとき脂肪分解で産生されたケトン体が体に溜まり、血液が酸性に傾くことでケトアシドーシスを起こします。
2型糖尿病の場合に糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡が起きる原因
糖尿病性ケトアシドーシスは1型糖尿病患者に多く見られ、2型糖尿病患者が発症する頻度は多くありません。
しかし、感染症などの異常な生理的ストレスが重なると2型糖尿病でも糖尿病性ケトアシドーシスを発症することがあります。
さらに、2型糖尿病患者は清涼飲料水を飲みすぎることでが糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こすこともあります。これをペットボトル症候群(清涼飲料水アシドーシス)といいます。
高浸透圧性高血糖性昏睡の症状
高浸透圧性高血糖になると、極度の脱水症状や著しい高血糖が起こり、以下のような症状を引き起こします。
・意識障害
・皮膚や粘膜の乾燥
・けいれん
・血圧の低下
・脈が速くなる
・尿の量が減る
高浸透圧性高血糖は以前は高血糖性高浸透圧性昏睡や非ケトン性高浸透圧昏睡、非ケトン性高浸透圧症候群などと呼ばれていましたが、現在は高浸透圧性高血糖と呼ばれることが多くなっています。
2型糖尿病や高齢者に多く起きる原因
高浸透圧性高血糖は主に2型糖尿病患者が手術や脳血管障害、感染症、高カロリー輸液、ステロイド薬の投与などでインスリンの作用不足が起こり、高血糖になることで発症します。高浸透圧性高血糖は2型糖尿病の合併症だけでなく、高齢者にも多く見られる症状です。
高齢者が発症しやすい理由には以下のようなものがあります。
・飲む水の量が減る
・身体機能の低下
高齢になると、のどの渇きを感じる口渇中枢の機能が低下します。そのため、水分が必要な状態にも関わらず、のどの渇きを感じにくくなり、飲む水の量が減ってしまうのです。
高血糖の急性合併症の治療と予防
高血糖による急性合併症を発症した場合は以下の方法で治療を行うことになります。
・十分な輸液や電解質を補充して脱水症状を緩和させる
・インスリンを適切に投与する
・発症した原因を排除する
糖尿病性ケトアシドーシスも高浸透圧性高血糖も感染症が引き金で起こることがあります。そのため、感染症を発症しないことが意識障害や昏睡の予防につながります。
特に糖尿病性ケトアシドーシスは極度のインスリン不足で起こることがあります。
糖尿病治療中は風邪などで食欲がないという場合であってもスープなど食べやすいものを摂り、飲み薬やインスリンを中断しないことが大切です。
さらに、体調が悪いときは体力を消耗しないためにも安静にして抵抗力を温存しておくことも重要です。
ただし、嘔吐や下痢が止まらなかったり、250mg/dl以上の高血糖が続く場合や食事が摂れず薬も投与できないとき、高熱が続くといった場合はすぐに医師の診察を受けましょう。
まとめ
糖尿病で入院が必要と判断される基準や急性合併症により意識障害を招いた場合の対処法について説明しました。
極度の高血糖になると、昏睡状態に陥り、最悪の場合死にいたることもあります。日ごろから教育入院などを利用して血糖コントロールに努め、インスリンの投与をおこたらないことが大切です。もし昏睡や意識障害の兆候が現れたらすぐに医師の診察を受けましょう。
監修:院長 坂本貞範